思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される

第1章 記憶を失った日常

目を覚ましたとき、最初に見えたのは白い天井だった。

ぼんやりとした光が視界に広がって、どこか現実味がない。

消毒液の匂いが鼻をつく。ゆっくりと瞬きをして、自分が病院にいるのだと理解した。

――どうして、ここにいるの?

体を動かそうとすると、腕に鈍い痛みが走った。思わず息を呑む。

「千紗、大丈夫?」

すぐそばから声がして、視線を向ける。

そこには、見慣れたはずの顔――母がいた。

その隣には父もいる。二人とも、ほっとしたように微笑んでいた。

「……お母さん」

声は出た。意識もはっきりしている。

それなのに。

胸の奥に、奇妙な空白があった。

「事故に遭ったのよ。覚えてる?」

母の言葉に、私はゆっくりと首を横に振る。

事故――。

その言葉を聞いても、何も浮かばない。ただ、怖いくらいに何もない。
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