思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
「そう……無理しなくていいわ」

母はそう言って、私の手を優しく握った。温かいはずなのに、どこか遠く感じる。

「お医者さんがね、記憶が少し混乱してるかもしれないって……」

父が言いづらそうに言葉を選ぶ。

その時、ふと気づいた。

私は、どこまで覚えているのだろう。

「……大学、までは覚えてる」

ぽつりと呟くと、両親の表情が一瞬だけ強張った。

「卒業して、就職して……それから……」

その先が、続かない。

頭の中に霧がかかったみたいに、そこから先がごっそりと抜け落ちている。

何年分か、丸ごと。

「私……そのあと、何してたの?」

問いかけると、母は一瞬だけ言葉に詰まった。父と視線を交わし、少しだけ迷うような沈黙が流れる。

「……ちゃんと働いてたわよ。秘書のお仕事。とても頑張ってたの」
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