思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
「私、祐樹とは結婚できない」

手のひらの上にある指輪を、そっと箱に戻す。

そして、それを祐樹の前に差し出した。

指先が、わずかに震えている。

それでも、引っ込めることはしなかった。

祐樹は、何も言わない。

ただ、じっとその箱を見つめている。

その沈黙が、重い。けれど。もう、戻れない。

その時だった。

「――失礼」

落ち着いた声が、横から割り込んできた。

「……え?」

反射的に顔を上げる。

いつの間にか、隣の席に人影があった。

見慣れたスーツ。見慣れた横顔。

「社長……!」

思わず名前を呼ぶ。

新太は、静かに椅子へと腰を下ろした。

まるで、最初からそこにいるのが当然のように。

「タイミング、よかった?」

わずかに口元を緩めて、そう言う。
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