思い出せない恋人より、忘れられない人がいる ――記憶喪失の秘書は冷徹社長に溺愛される
祐樹は何も言わず、じっと私を見ている。

その視線から逃げずに、私はゆっくりと指輪に触れた。

そして必死に、外す。

「……っ」

なかなか抜けない。

けれど、力を込めて――ようやく、外れた。

「私の恋人は、祐樹だったかもしれない」

ぽつりと、言葉を落とす。

過去のことは分からない。

本当にそうだったのかもしれない。

「でも」

顔を上げる。まっすぐに、祐樹を見つめる。

「好きな人がいるの」

胸の奥から、言葉が溢れてくる。

もう、止められない。

「一緒にいたいの」

その想いだけは、確かだった。

記憶なんてなくても。

理屈なんてなくても。

「……千紗」

祐樹の声が、わずかに揺れる。

私は、ゆっくりと首を振った。

「ごめんなさい」

震えながら、それでもはっきりと。
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