捨てたものに用なんかないでしょう?

27   良いことなのかもしれませんね

 そうこうしているうちに、メイドが戻って来て、マドレーヌが入った箱をリミアリアに手渡した。持ち帰りの件はありえない出来事だと考えており、中身は子爵邸に勤めているコックが作ったものだ。
 食べれば味が違うとわかってしまう可能性はあるが、フラワはマドレーヌが毒入りだと思っている。食べずに捨てることが予想されたので、見た目だけそっくりであれば入れ替えたことがバレる心配はなかった。

(毒が入っているとわかっていて自分が食べたり、誰かに食べたりさせるような馬鹿ではないと信じたい。それに食べたとしても何も起こらないし、起こらないことを怪しむほうがおかしいものね)

 そう考えた後、リミアリアは押し問答をしているフラワとナンサンに話しかける。

「持ち帰っていただくお菓子の準備ができました。お話の続きは帰りの馬車の中でお願いいたします」
「そうだな。フラワ、とにかく帰ろう。持ち帰るお菓子を食べながら馬車の中でゆっくり話さないか」
「馬車の中で飲食なんてしてはいけません!」

 絶対にしてはいけないという決まりはないが、淑(しゅく)女(じょ)にははしたない行為なのだろうと考えたナンサンはうなずく。

「わかった。とにかく帰るとしよう」

 ナンサンが立ち上がったため、フラワも渋々立ち上がった。リミアリアは廊下で待っていたフラワの侍女にお菓子の入った箱を手渡して微笑む。

「フラワ様の大好物らしいから、たとえフラワ様があなたたちに気を遣って遠慮したとしても食べさせてあげてね」
「承知いたしました」

 この会話を聞いたフラワは、リミアリアを恨めしそうに見つめた。

「リミアリア、あなた本当のことを知っているのね」
「本当のこととはどういうことでしょうか?」
「口に出さなくてもわかるでしょう!」
「わかりません。どうか馬鹿な私にもわかるように、フラワ様が考えていらっしゃることを、この場で教えていただけませんか」
「最悪! あなたは本当に最低なクズ女だわ!」

 フラワは自分のことは棚に上げて叫ぶと、ナンサンの手を掴んで部屋を出ていった。
 リミアリアはソファに座ったままのアドルファスに話しかける。

「最低な人に最低と言われるのは、ある意味良いことなのかもしれませんね」
「どういうことだ?」
「うまく言えないのですけど、最低な人が最低だと思うことをやっているのなら、一般的には良いことをやっているような気になりまして」
「そういうことか。そうだな。今回の場合は特にそうかもしれない」

 アドルファスが笑って答えた時、外からフラワとナンサンの声が聞こえてきた。
 リミアリアとアドルファスが窓辺に近づくと、ちょうど馬車がポーチにやって来たところだった。
 御者が馬車の扉を開き、ふたりが乗り込む姿が見える。

「リミアリアは嘘ばかりなんです! リミアリアのせいで私の悪い噂が流されていて、嘘がまかり通っているんですよ! 調べたって意味がありません!」
「根拠があるかないか、自分でちゃんと判断するから心配しなくていい」
「そういう問題じゃないんです! ナンサン様に疑われているみたいで嫌なんです!」

 フラワは必死に訴えていたが、ナンサンは気にする様子もなかった。

(ナンサン様はどうも信用ならないのよね)

 ふたりの様子を眺めながら、リミアリアはアドルファスに問いかける。

「ナンサン様は本当にフラワ様のことを調べるでしょうか」
「調べるとは思うが、フラワ嬢に惑わされてやめる可能性もあるから、テルスミ公爵に連絡しておく」
「ありがとうございます」

 リミアリアは礼を言うと、フラワたちの乗った馬車が走り去っていくのを見送った。

 それから二日後、リミアリアのもとにナンサンが訪ねてきた。応接室に案内し、メイドがお茶を淹れて出ていくと、彼はリミアリアに頭を下げた。

「すまなかった」
「頭を上げてくださいませ。ところで、すまないというのは、何に対してのことなのでしょうか」

 リミアリアが尋ねると、ナンサンは眉根を寄せて答える。

「フラワが何をしていたかわかった。僕は彼女に騙されていたんだ。騙された自分も悪いが、彼女のことも許せそうにない。もし、僕に何かできることがあったら協力したいから言ってくれ」

 その言葉を聞いたリミアリアは、ナンサンにある頼みごとをしたのだった。

< 28 / 42 >

この作品をシェア

pagetop