捨てたものに用なんかないでしょう?

39  ゴミを捨てたんですよ

「今になって何をしようがあなたたちのやったことに変わりはありません。それから、母を奪われた私にとって、あなたたちの未来が絶望的であっても痛くもかゆくもありません」
「そんな! 私はお前の父なんだぞ!?」
「それは過去のことです。私からあなたを捨てたのですよ。父だから助けようなんて感情が私に浮かぶと思いますか?」
「ううっ!」

 テイランは言い返せないのか、言葉にならない声を上げた。
 リミアリアも、ここまで強い言葉を吐くつもりはなかった。だが、母の無念を考えると、リミアリアはどうしても口に出さずにいられなかった。
 彼らと同じ空間にいることが嫌になったリミアリアは、話の途中ではあったが、ここで話を切り上げることにした。

「もう出ていってください。もし、私と話がしたければ、騎士を経由してください」
「待ってくれ、リミアリア! 本当に私はお前と和解したいんだ!」

 この機を逃せば、自分は終わりだと感じ取ったテイランは涙目でリミアリアに訴えた。

「仲直り? するわけないでしょう。何度も言っていますが、私があなたを捨てたのです。間違って捨ててしまったならまだしも、ゴミを捨てたんですよ?」
「ゴミだって? 親をゴミだと言うのか?」
「私が親と思えるのは亡くなった母だけです」

 リミアリアは冷たく答えると、ゆっくりと立ち上がり、テイランを見下ろす。

「話すことなんてありません」
「ま、待て! 話を聞いてくれ!」

 テイランは机に身を乗り出して、リミアリアの足をつかもうとしたが、アドルファスがその手をつかんでひねり上げた。

「ぎゃっ!」
「リミアリアに触れようとするな」

 アドルファスは、テイランの腕をつかんだまま立ち上がった。
 テイランは情けない声を上げながら立ち上がり、アドルファスに訴える。

「触れません! 触れませんから離してください!」
「大人しくするのか?」
「……は、はい」
「騎士隊の取り調べも大人しく受けるんだろうな?」
「………うぅっ……はい」

 テイランはとうとう覚悟を決め、項(うな)垂(だ)れながらうなずいた。アドルファスによって部屋から引きずり出されていくテイランを見つめていたホリーを、リミアリアが急かす。

「シウナ子爵夫人、あなたも出ていってください」
「あ、で、でも、リミアリア。あなたはアドルファス殿下と結婚するのでしょう? やっぱり親が必要よ。あなたのお母様のようにはなれないけれど、精一杯あなたを愛するわ」
「両親がいなくても、アドルファス様は私と結婚してくださるそうですから、お気遣いなく。どちらかというと、あなた方と縁があるほうが、結婚にはマイナス要素になるでしょうしね」
「……リミアリア、あのね」

 ホリーは息子と自分だけでも何とか助かろうと、息子の話を持ち出そうとしたが、アドルファスに遮られる。

「リミアリア、シウナ子爵は兵士に任せた。あとは騎士が取り調べを始めるだろう」
「色々と助けていただき、ありがとうございます」
「婚約者だからな」

 アドルファスはリミアリアに優しく微笑んだが、ホリーには厳しい目を向ける。

「シウナ子爵に話ができなかったが、あなたには伝えておく」
「……どのような話でしょうか」
「あなたが捨てた娘、フラワ嬢の話だ」

 フラワの名前を聞いた瞬間、ホリーの目に涙が浮かんだ。

******

 時は遡(さかのぼ)り、フラワがシウナ子爵家から追い出された日のこと。しばらくの間、フラワは門の前で泣きわめいていた。

「どうしてよ! 私を可愛がってくれていたんじゃないの!?」

 門兵たちは、フラワを気の毒そうに見つめてはいたが、巻き込まれたくないと思い、知らんぷりをしていた。
 地面に座り込み、家族への恨み言を言い続けている彼女に背後から近づく者がいた。

「助けてやろうか」
「……え?」

 座り込んだまま振り返ると、そこにはナンサンが立っていた。急に現れた彼は、今まで彼女に見せていたような優しい微笑みではなく、どこか冷たい笑みを浮かべていた。
 そのことに気づいてはいたが、今のフラワに警戒する気力はなかった。

「ナンサン様……、私を助けてくださるのですか?」

 涙で化粧が崩れ、フラワの顔は酷いものになっていた。そんな彼女を見てナンサンは笑ったのだが、フラワは自分に笑いかけてくれたのだと勘違いした。

「助けてやるよ」

 そう言って、ナンサンは近くに待たせていた馬車に、フラワを連れて乗り込んだ。
 いつも乗っていた公爵家の馬車ではなく、かなり古びた馬車だった。客車の中は見た目以上にボロボロで座面に染みがあったり破れていたりして、フラワは座ることを躊躇(ためら)う。

「あ、あの、いつもの馬車ではないんですか?」
「そうだ」
「ま、まさか、公爵家にお金がなくなったわけではないですよね?」
「そんなことを心配しなくていい。公爵家は、僕がどうなろうが大して変わらない」

 横に座るナンサンはフラワのほうを見ずに答えた。

(まだ怒っているのかしら。でも、怒っていたら、私を助けないわよね?)

 フラワは大事なことを聞いていなかったのを思い出し、明るく努めて話しかける。

「ナンサン様、これからどこに向かうのですか? まずは宿屋でしょうか?」
「宿屋のわけがないだろう」
「で、では、公爵家に連れ帰っていただけるのですか?」

(やったわ! 神様は私を見放してなんかいなかった!)

 喜んだフラワだったが、すぐにその希望は打ち砕かれる。

「父上から罰として、鉱山で下働きをしろと言われた」
「……は?」
「こうなったのはフラワ、お前のせいだ。だから、お前も付き合ってくれるよな?」
「い、嫌、嫌です!」

 首を横に振り、逃げ出そうとしたフラワだったが、ナンサンに腕をつかまれ、座面に押し倒された。

「ワガママを言うなよ。鉱山に着くまでまだまだ時間がある。それまでの間、楽しませてくれよ」
「い、嫌あぁぁっ! 誰か、誰か助けてっ!」

(こんな! こんな目に遭うくらいなら、リミアリアと仲良くしておけば良かった!)

 フラワは必死に助けを求めたが、馬車は停まることもなく、助けに来てくれる者もいなかった。

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