捨てたものに用なんかないでしょう?

40  許すつもりはありません

 テイランとホリーが訪ねて来た日から十日が経った頃、リミアリアたちのもとへエマオの裁判が王都にある有名な広場で行われるという連絡が入った。
 プリリッツ王国での裁判は公開裁判だが、一般的には裁判所で行われる。に
 しかし、今回は被害者や被害者家族の望みで、より多くの人の前で裁判をすることが決まった。このようなことは今までになかったが、特例で実施されることになったと、リミアリアは知らされた。
 執務室で仕事をしながら、リミアリアは同じく仕事中のアドルファスに話しかける。

「エマオさんの処刑が決まれば、公開処刑になりそうですね」
「子供にはあまり見せたくないが、悪いことをすればああなると、わざと見せる親もいるらしいぞ」
「それぞれの家庭で教育方針が違うものなのですね」

(私だったら子供に見せたくないかも)

 アドルファスはどうなのだろうと思い、彼に目を向けたが、仕事が忙しくて、それどころではなさそうだった。

(話す機会は、これからたくさん作れるわよね)

 テイランとホリーは、いまだに自分の罪を認めていない。
 自白はないが、周りの証言により心証は真っ黒である。彼らが近々捕まることは予想されているため、しばらくの間、リミアリアは裁判の傍聴などで忙しくなるだろうと考えた。
 解毒薬を作る仕事もまだ辞めていないので、時が来るまでは、自分の仕事に集中することにした。

 五日後、エマオの裁判の日がやってきた。
 その日は朝から快晴で、肌が痛いほどに日差しの強い日だった。
 公開裁判が行われるイザンダ広場には多くの人が集まっており、簡易に作られた壇上はロープで囲まれ、それ以上は近づけないようになっている。
 リミアリアとアドルファスは関係者席が用意され、護衛騎士たちと共に、用意された木の椅子に座った。開始時刻になると、木の机と椅子しか置かれていない壇上に、エマオが連れてこられた。
 心労のせいか、エマオはやせ細り、顔に生気はない。今日のために髭や髪は整えたようだが、窪んだ目がはっきりと見えて、観衆たちから悲鳴が上がった。
 手(て)枷(かせ)と足枷をつけて現れたエマオは、抵抗したり逃げ出そうとする気配も見えない。

(少しは反省したのかしら)

 リミアリアがそう思った時、エマオがリミアリアのほうを振り返った。目が合った瞬間、カッと目を見開いたかと思うと、リミアリアに向かって叫んだのだった。

◇◆◇◆◇◆

 広場に集まっている多くの人たちは、口にはしないが、エマオに良くない感情を持っていた。
 冷たい視線を向けられ、エマオはここにいることが辛くて仕方がなかった。
 裁判員はロープの内側の段下にいて、観衆に背を向けているため目立ちにくい。
 裁判員の横には三十人程の被害者や、被害者家族が集まっていて、エマオを冷たい目で見つめていた。

(もう終わったことだろうが! どうして放っておいてくれないんだ!)

 エマオは生きることに疲れていたが、死にたいとは思わなかった。
 ただ、どこかへ逃げたい。
 そう考えた時、殺意を感じて振り向いた。すると、彼の視界にアドルファスとリミアリアの姿が映った。

(リミアリア! 来てくれたのか!)

「リミアリア! 悪かった! 許してくれ! 頼むから、俺を殺さないでくれ!」

 涙を流しながら訴えると、リミアリアは何の感情も示さない顔で冷たく答える。

「私に許しを請うても無駄です。それに、私は許すつもりはありません」
「そ、そんなっ!」
「ここに何をしに来られたのです? 私に謝るためではないでしょう?」
「それは……」

 エマオは慌てて被害者家族たちに訴える。

「俺は悪いことはしていない! お前たちの家族が死んだり、死にかけたりしたのは本人が悪いんだよ!」

 裁判が始まったわけではなかったが、多くの人がエマオの発言を聞いていた。

「あ……、えっと、あ、その」

 エマオは被害者家族が座っている一角に向かって頭を下げる。

「悪かった! 反省している! だから、処刑だけは勘弁してください!」

 被害者家族はエマオを冷たい目で見つめるだけで何も言わなかった。
 裁判が始まると、エマオは必死に自分が悪いことをしたと訴えた。
 イライラしていたからといって、多くの人を傷つけて申し訳ないと、何度も謝った。しかし、何を言われても、被害者家族は許さなかった。
 だが、そんなに処刑が嫌ならばと、違う罰を求める者が出てきた。
 その罰とは、島流しのことだった。
 プリリッツ王国でいう島流しとはそのままの意味で、筏(いかだ)に乗せられ沖合いに放置される。その後、どこに流れ着くかは運次第と言われていた。

(島流しなら、どこかの島にたどり着けば生きていくことができる)

 エマオは喜んで、その罰を受け入れると答えたが、彼の未来は明るいものではない。
 潮流が彼を導く先は、氷の海だった。
 エマオはその光景を目にした時になってやっと、自分がこれだけ恨まれるような酷いことをしたのだと涙し、後悔するのだった。
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