モトカレセンパイ
「…奏多先輩?」
大学の入学式。
私の目の前で、オカルト研究サークルの看板が一瞬揺れた。
看板には、でかでかと“新入生よ、ぜひオカ研へ”と書かれている。
看板を持っていたその人は、私にニコッと笑いかける。
その頬のエクボを、忘れるはずなかった。
ーーなのに
「えーっと。どちらさん?」
その瞬間、胸が張り裂けそうになった。
そっか。
忘れられちゃったんだ。
中学の頃…だもんね。
私だけが、覚えていた。
一緒に帰ったのも、
手を繋いだのも、私服でデートしたのも。
全部、奏多先輩が初めてだった。
「あ…えっと、」
何も言葉が出てこなくて、一歩、後ずさる。
「興味ないっしょオカ研なんて。あっちに文芸部とかあるよ」
奏多先輩は、笑顔のまま私の背中を押す。
その手が、微かに震えた気がした。
「おい奏多、何で貴重な新入生を他所にやるんだよ」
奥から誰かがそう声を掛ける。
咄嗟に、奏多先輩が私の腕を引いた。
思わず見上げると、その真っ黒な瞳に、私が映った。
心臓が、うるさいくらいに音を立てる。
ごくりと唾を飲んだ私を見て、奏多先輩が、ふっと笑った。
「昔から瞬きしないよね。こういう時」
世界が一瞬、止まった気がした。
ーー“こういう時”
その意味を考えて、カッと顔が熱くなる。
「…やっぱり、奏多先輩ですよね」
私はもう、目を逸らせない。


