完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
「それにしても、六万三千円か……」

 正直、かなりお金はかかる。こんな生活は、あと何日も続けられない。
 このままだと野垂れ死にしてしまう……そう考えたら怖くなって、反射的に起き上がった。
 ベッドの上に放り投げていたスマホに、手を伸ばそうとする。

 実家へのSOSが、頭をよぎった。
 この緊急事態、頼れる場所は……あそこしかない。
 震える手でスマホを掴もうとした、次の瞬間。

 実家での忌々しい日々が、雪崩のように一気にフラッシュバックしてくる。

「いや、無理無理。あんな場所……二度と戻りたくない」

 自分に言い聞かせるように呟く。
 思考を投げ出して、ぐーっと両手を天井に向けて伸ばし……溜まっていた息を吐き出した。
 すると、急に胃の辺りがソワソワし始めた。

「あー、お腹空いたー」

 まだ夜ご飯の時間には少し早いけど……もう限界だ。
 こんなどん底にいても、お腹はちゃんと空く。むしろ、余計に。
 キャリーケースの中から、シーフードのカップ麺を取り出した。

「ケトルは……あったあった」

 水を入れてスイッチオン。
 その間に、さっきコンビニで買ったスライスチーズを細かく裂いて、カップの中へ放り込む。
 あとは、お湯を注いで三分待ち。

「その間に、着替えちゃお」

 ブラウスとテーパードパンツを脱ぎ捨て、ホテルに常備されている館内着に着替えた。
 会社に着ていく用のブラウスとパンツは……キャリーケースの中に、あと一枚ずつ。
 これで回していくしかない。
 この状態で本当に仕事に行けるのか、不安にもなるけれど……考えても仕方ない。

「……まあ、何とかなるでしょ」

 そう思わないと、やっていられない。

「うわ、最高……」

 カップを開けると、チーズがとろとろに溶けている。
 立ち上る湯気に顔を近づけて、保湿するみたいに蒸気を浴びた。

 ああ、いい匂い。

「いただきまーす!」

 麺と一緒に、とろけたチーズが口の中に流れ込んでくる。
 濃厚さが絡み合って、噛めば噛むほどクセになる。
 スープのまろやかさも相まって、完全に優勝だ。

「あー……最高……」

 本当はこのカップ麺、寝る直前に食べるつもりだった。
 寝る前に食べる、あの背徳感が堪らなく好きだから。

 でもまあ、仕方ない。
 今は何より、この空腹を満たす方が優先だ。
 お腹が空いたら、またコンビニに行けばいいだけ……。

 一人で麺を啜る音だけが、静かな部屋にやけに大きく響く。

 自然と、スマホに手が伸びた。
 考えるより先に、いつも見ているSNSを開いてしまう。
 すぐに目に飛び込んできたのは、光市の投稿だった。

「……え、誰この女」

 そこには、光市が見ず知らずの綺麗な女性と、食事に行ったという内容が。
 写真付きで、しかも妙に楽しそう。

 私と別れて、こんなにすぐ次の女性と遊べるものなの?
 胸の奥が、ムカッと熱くなる。

 その女性は、私とはまるで正反対だった。
 ブランド物のアクセサリーがさりげなく目立っていて、メイクもばっちり決まっている。

 ――大人の女性、って感じがする。

「……こんな人が、光市の次の相手?」

 投稿のリプライには、その女性からのコメントが。
 やり取りは、どう見ても良い雰囲気で、仲の良さが滲み出ている。

「私は一人で寂しく、カップ麺を啜ってるっていうのに……」

 ストレスをぶつけるみたいに、豪快に麺を啜る。
 そのままの勢いで、スープまで一気に飲み干した。

 もう、何もかもどうでもよくなって、私は再びベッドに飛び込んだ……。
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