大好きな幼馴染は既婚者子持ち

第5話 感覚

 修学旅行の夜は、テーマパークから少し離れた場所にあるホテルに泊まることになっていた。バスでは文香の隣になった。

「なあ、どこ行ってたん?」
「ああ、ごめん。類斗とジェットコースター乗ってた」
「そうやったん、どうやった?」
「え」
「だからジェットコースターやん。やばかったんちゃう?」
「ああ、怖過ぎて……」

 と言ってから、類斗との約束を思い出して耳が熱くなる。手の感覚がまだまだ残っている。湿った互いの手。わたしは右手を見つめる。

「文香たちはどこ行ってたん?」
「コーヒーカップみたいなんすいてたから乗ってた」
「そうなん? 酔わんかった?」
「もーやばかったわ、奏がぶんぶん回すからさ、頭ちぎれるかと思った」

 文香は、彼女の姉の友達と付き合っている。まあ、わたしには体目的にしか聞こえないけれど。とりあえず、エッチすることは避けているようだ。

「この間はやばかった、まじで入るかと思ってんけどさ。ゴムないしやめてもらった」

 文香とは仲はいいけど、そっちの話に疎いわたしはただの聞き役だ。彼女の話を聞きながら勉強中。ていっても、彼氏なんていないし、出来そうにもないし、それに類斗のことだけだったから頭の中には。

 またふたりきりで話したいな、とかまた手を握れたらな、とかしか思わなかった。だけど今の関係を壊したくないから、もちろん何も言えなかった。

 ジェットコースターでの提案を思い出す。そして、最後のくだりのことも。わたしは自分の耳に残った言葉を探し出そうと必死になる。間違いなく、類斗は隣で誰かの名前を叫んでいた。だけど、わたしには自分の叫び声しか伝わってきていなかった。

 もう一度チャンスは巡ってこないだろうか。それか、過去に戻れないだろうか。いつまでもばかなわたしだ。

 類斗たちは少し離れた場所に奏也と並んで座っている。バスが大きく右に曲がる。それからしばらくするとホテルについた。妙に、類斗を意識してしまう。手を握っただけなのに。はぐれないためにだ。それ以上でもそれ以下でもない。ただはぐれないためにだ。

 
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