推しの妻になりました〜アイドルと契約結婚〜
第2話 スイートルームの罠①

心臓の音がうるさくて、耳の奥までドクドクいっている。
(……本物のTOMAだった)
一人のファンとして胸が高鳴る。
しかし、自分の失態と彼の冷たい態度を思い出して複雑な気持ちになる。
(記憶消したい……なんなのあいつ、性格最悪じゃん)
でも、仕事は仕事。
一流ホテルのコンシェルジュとして、お客様のオーダーは絶対。
「……行くしかない、よね」
苺依は最高級の豆を挽いたホットコーヒーをトレイに乗せ、50階のスイートルームの前に立った。
――――ピンポーン
チャイムを鳴らすと、すぐに扉が開く。
「お待たせいたしました」
「遅いんだけど」
「申し訳ございません。こちら、ご注文のホットコーヒーでございます」
部屋に入ると、そこは夜景が一望できるリビングのような空間。
トレイを置こうとしたその時、TOMAが不意に苺依の手首を掴んだ。
「ひゃっ……!?」
「お前、さっきの見たよな……あの女との会話」
苺依を見る彼の目は、アイドルのキラキラした瞳とは違い、冷たい色をしていた。
「も……申し訳ございません。聞かなかったことにしますのでどうか……」
クビだけは勘弁願いたい。
念願の仕事を辞めたくはない。
「別に……そこは疑ってねぇ」
「そう、ですか……」
TOMAがなにを求めているのか、苺依にはわからなかった。
――――ピリリリリリリ!
突如、テーブルの上にあったTOMAのスマホから着信音が響き渡る。
その画面を見て深い溜息を吐いたTOMAは気だるい声で電話にでた。
「なんだよ」
電話の向こうから男性らしき声が聞こえるが、内容まではわからない。
(これは、帰ったほうがいいよね……)
お客様のプライベートに介入するのは規則違反。
苺依はTOMAに深いお辞儀をして部屋を出て行こうとした……が。
――――ガシッ!
またもや手首を掴まれる。
「っ!?」
TOMAが鋭い視線で苺依を見つめると、スマホを持ったまま不敵に笑った。
そして、衝撃の言葉を発した。
「悪いけど今後、縁談の話はなしにしてくれ。婚約者がいる」
「!?」
なに言ってんだ、この人は。
っていう視線でTOMAを見ると、彼はさらにこう続けた。
「もう一緒に暮らしてるから」
――――プツ
一方的に電話をきったTOMAに苺依は理解が追い付かない。
推しに婚約者がいるなんてビッグニュースだ。
「あ、あの……手、離してください」
「あんた、高階だっけ?」
「はい、そうですが」
「俺の妻になれ」
「は……はい?」
――To be continued