異世界に来て10年、伝えられないままの片想い

第2章 不毛な片想いだと、わかっているのに

バルス=エルフォード。

リトビア国の騎士で、第10師団の副隊長。



短く整えられた銀髪に、同じ色の狼の耳としっぽ。

金色の瞳に、整いすぎているくらい整った顔立ち。

190㎝ほどの長身に、無駄のないしなやかな体つき。



ただ立っているだけなのに、どうしてこんなにも目を奪われてしまうのだろう。

――いまだに、慣れない。



「いらっしゃいませ」



声をかけてから、バルスの方へ歩いていく。



「今日はお休みですか」



小さくそう尋ねると、バルスは一度だけこちらを見て、



「あぁ」



と短く答えた。



それからメニューを一瞥して、



「これを頼む」



それだけ言って席に腰を下ろす。



たったそれだけのやり取りなのに――

それだけで、嬉しくなってしまう。



副隊長になってからはさらに忙しくなって、

最近は休みの日にここへ来るときくらいしか会えなくなった。



だから、なおさら。



綺麗な姿勢で席に座るその背中をちらりと見て、私は小さくため息をつく。



我ながら、不毛な片想いだと思う。



彼は、私を助けてくれた人だった。



ぶっきらぼうな話し方なのに面倒見がよくて、

結局いつも、優しい。



異世界から来た私を放っておけなかっただけなのかもしれない。



それでも。



私が彼に好意を持ってしまったのは、たぶん必然だった。



目下の悩みはひとつ。



――彼に恋人、あるいは伴侶ができる日が来ること。



同族の女性にも、多種族の女性にも、アプローチを受けているらしいという話はよく耳にする。



……それに比べて私は。



中肉中背で、平凡より下の地味な顔立ち。

身長も150㎝と低くて、10代に間違われることも多い。



早い話が、26年間、恋愛とは無縁のままここまで来た。



まぁ、仕方ない。



彼にとって私は、



「なぜか懐かれてしまった異世界人」――きっと、その程度だ。



所詮、生涯片想い。



それは分かっている。



それでも。



相手がいない片想いと、

恋人や妻がいる片想いでは、やっぱり違う。



その“いつか”が来る日を思うと、

胸の奥が、少しだけ重くなる。



バルスの席へ、出来上がった料理を運ぶ。



皿を置こうとした、そのとき。



「ミドリ、明日から二週間ほど家を留守にする」



不意にかけられた言葉に、手がわずかに止まる。



「悪いが――」



言い切られる前に、私は先に口を開いた。



「わかりました。留守中の管理と、植物の水やり、やっておきますね」



ほんの一瞬、バルスがこちらを見る。



「あぁ……毎回、悪いな」



「いえいえ。今までお世話になってきましたから」



そう答えながら、手を前で振る。



ちょっと頼まれるだけで、こんなに嬉しくなれるなんて、

私ってお手軽だなと我ながら思う。



他の客に呼ばれて、会計へ向かう。



バルスに背を向けたまま、小さくため息をついた。



――そういえば。



ここ一年くらい、バルスが家にいるときに、雑談をしに行かなくなった。



前は、休みの日を聞いて、少しだけ話しに行ったりしていたのに。



私も食事亭で接客の仕事があるから、休みを合わせないと、そもそも会いに行けない。



最近は忙しいらしくて、前もって聞いても分からないことが増えて、

気づけば、足が遠のいたまま。



……それとも。



迷惑、だったのかな。



わざと教えてくれなかった、とか。



そんなことを、最近は考えてしまう。



――考えたくないのに。



その“いつか”が来たら――

彼の傍に、私ではない誰かがいるなんて。



きっと、笑えない。

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