恋と結婚は別物です! 偽装結婚のはずなのに、強気なナースはフライトドクターの一途な愛に溶かされる
「大変おこがましいとは存じますが、ひとつお願いを聞いていただけますでしょうか?」

 宇田川先生はそのまま、封筒の口に手をかけた。

「婚姻届の証人に、なっていただけないでしょうか?」

「もちろん! 書くわよ~」

 祖母はやる気満々だ。ベッド横のチェストにのせていた老眼鏡を掛けると、宇田川先生の差し出した婚姻届を手に取る。私がボールペンを差し出すと、祖母は震える手で証人の欄をゆっくりと埋めてくれた。

 やがて祖母はペンを置き、婚姻届を私たちに差し返した。そこにあったのは、弱々しいけれど、おばあちゃん特有の丸っこい字だ。

「ああ、なんだか本当に幸せ。詩音から幸せのお裾分けをいただいたわ」

 祖母は老眼鏡を外し、そっと目元を拭った。祖母の文字が震えているのは、もしかしたら涙をのみ込んでいたからかもしれない。

「詩音、幸せになるのよ」

 祖母はうるんだままの瞳で私を見る。それから、宇田川先生に向かってそっと頭を下げた。

「宇田川先生、詩音をよろしくお願いします」

「はい。必ず彼女を幸せにします」

 宇田川先生はそう言って、そっと頭を下げた。

 彼の言葉は、偽装とバレないようにするための嘘だ。それでも、彼の言葉を真実だと信じて疑わない祖母は、頭を上げて優しく微笑む。

 そんな祖母の慈愛にあふれた瞳を見ていると、宇田川先生に結婚を提案された時に言われた言葉を思い出した。

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