恋と結婚は別物です! 偽装結婚のはずなのに、強気なナースはフライトドクターの一途な愛に溶かされる
 その瞬間、お父さんの視線がこちらを向いた。皺の寄った眉間の下の、私を射抜くような強い眼差し。心が怯えると同時に、私は自分の失言を悔いた。

 しまった!
 結婚相手のお父さんに、なんてことを言ってしまったのだろう。

 頭から血の気が引いていくが、彼は思ったよりも穏やかな口調で言葉を紡いだ。

「詩音さん。そうでもしないと、医療は崩壊するんだ。この間だって、誰でも受け入れを謳っていた救急病院が、ひとつ潰れただろう」

 その言葉に目をしばたたきながらも、私はつい顔を伏せてしまった。彼の言うことも正しいと、瞬時に理解したからだ。

 資金回収をできなくなった病院は、廃院を迫られてしまう。
 今まさに、各所の大病院も老朽化を問題視されている。資金繰りが厳しく、備品を買い替える余裕がないそうだ。
 静和大学附属病院だって、この先十年二十年、五十年と続いたら、どういう道を辿るかはわからない。

 きれいごとだけでは、人の命は救えないのだ。

 それでも、私の心には靄が残ってしまう。目の前に消えそうな命があったら、助けたいと私は思う。

「俺と父さんの考えが端から違うのは、もう何年も前からわかっている」

 複雑な気持ちを抱える中で聞こえてきたのは、宇田川先生の声だ。
 彼は私の腰を抱く手にぐっと力を入れ、静かな声で続きを紡ぐ。

「俺は俺と同じ信念を持っている彼女を信頼しているし、愛している」

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