恋と結婚は別物です! 偽装結婚のはずなのに、強気なナースはフライトドクターの一途な愛に溶かされる
 はっと彼を見上げる。
 宇田川先生は、ちらりとこちらを見た。その顔は、どことなく優しく感じる。

 私たちの間に、愛はない。だけど彼の思いは、本当のことだろう。
 だから私も、彼のことを〝医者として〟は信頼しているのだ。

「父さんになにを言われても、俺は詩音と結婚する」

 宇田川先生はそう言い切ると、お父さんにA4の封筒を差し出した。

 お父さんは嫌そうな深いため息をこぼしながらそれを受け取り、中身を雑に取り出した。

「もう、好きにしろ」

 お父さんは難しい顔をしたまま、胸ポケットから取り出した万年筆で証人の欄を埋めてゆく。
 きっと事前に、証人になってほしいと宇田川先生が伝えてくれていたのだろう。

「ありがとうございます」

 それでも丁寧な字で欄を埋めてゆくお父さんに、私はほっとしながらぺこりと頭を下げた。

 外に出ると、新鮮な空気が張り詰めていた気持ちをほぐしてくれた。
 宇田川先生は、相変わらず仏頂面で私の腰を抱いているけれど。

 見送りに来てくれたのは、お兄さんだけだ。

「詩音さん、ごめんね。父さんと龍臣は、いつもこうなんだ」

 彼は私の隣にやってくると、車へと戻る私たちについてきながら朗らかな口調で言った。

「いえ……」

 私は言葉を濁してそう答えた。お父さんの言い分も、十分に理解できたからだ。

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