恋と結婚は別物です! 偽装結婚のはずなのに、強気なナースはフライトドクターの一途な愛に溶かされる
「いえ、私はただ案内をしただけですから」

 笑みを浮かべてそう言うと、龍臣さんがぼそっと言った。

「ERの邪魔はしないでくれ」

「本当に、龍臣はつれないなあ」

 お兄さんはけらけら笑って、私たちの前から去っていく。それで、やっと肩の力が抜けた。
 思わずふうと一息つくと、龍臣さんは私の腰から手を離す。

「急がないと、面会時間が終わってしまう」

 寂しいと思ったけれど、彼の言うことも事実だ。
 私たちは急いで、祖母の病室へと向かった。

 今日も元気そうな祖母の様子に安堵し、龍臣さんと一緒に病院を出る。
 彼は今日、車で来ていた。帰りに買い物に行こうと、示し合わせていたのだ。

 彼のクーペに乗り込むと、龍臣さんは運転席の扉を閉めてから口を開いた。

「すまない。まさか、兄さんがここまでやるとは思わなかった。兄さんのこと……迷惑をかけるが、よろしく頼む」

 龍臣さんはそう言って、ハンドルを握る。
 やはり、お兄さんは私たちの関係を探るために、ここに来たらしい。

「大丈夫です。私、頑張ります」

 彼が祖母の前でとびきりの笑みを見せてくれるように、私もお兄さんの前では彼を愛している〝ふり〟を頑張ろう。
 そう思って返したが、彼はこちらに苦笑いを向けた。

「頑張りすぎないでくれ。いつも通りの詩音でいてくれれば、それでいい」

< 92 / 144 >

この作品をシェア

pagetop