恋と結婚は別物です! 偽装結婚のはずなのに、強気なナースはフライトドクターの一途な愛に溶かされる
 一度気づいてしまえば、そのほうが正しい気がしてくる。だって、私たちの間に愛はない。

 それに、結婚前までは私も彼に対して周りと同じ印象を抱いていた。
 彼は〝冷徹で不愛想な医者〟なのだ。

『兄さんは、勘が鋭い。きっと、怪しまれていると思う』

 龍臣さんの実家に伺った時の彼の言葉が、頭の中に蘇る。

 お兄さんに怪しまれないために、私を手懐ける。計算高い彼なら、そういう方法をとるのも不思議じゃない。

 ちらりと運転席を見ると、龍臣さんはいつもと同じ顔をしている。それで、胸にあるこの思いが確信に変わった。

 私はつい、体からどっと力を抜いてしまった。私ばかり振り回されて、馬鹿みたいだ。

 龍臣さんは最初から、こうなることを見越していたんだ。私との関係が偽装だとバレないようにと、尽くすふりをしてくれていただけ。
 それなのに、まんまと引っかかって、彼のことを優しいと思い込んで――。

 鼻の奥のほうがツンとして、慌てて洟をすすった。
 すると今度は、目の前の赤信号がぼやけてしまう。

 ああ、なにを傷ついているんだろう。
 最初から決めていたじゃない。この結婚は、互いの利害が一致しただけの、愛のないものだって。

 それなのに……。

 涙がこぼれそうになり、慌てて目元を手で覆った。

< 94 / 144 >

この作品をシェア

pagetop