グルゥとリル、もりのはずれで
苔のひろいところ
ひるすぎの森は、ひかりの色がやわらかくなっていて、木のあいだから落ちてくる明るさも、どこか丸いもののようでした。土の上には苔がふかくひろがっていて、そこだけ森の床が、古い寝床みたいに見えます。踏むたびに音がのみこまれて、足もとから、しんとしたみどりが返ってくるのでした。
グルゥはその場所を知っていて、いつものように先に入りました。大きな足が苔の上へおりると、みどりはつぶれるのではなく、ゆっくり身をよせるようでした。うしろからついてきたリルは、眠たげな目のまま、あたりを見まわしていました。苔は木の根もとの高いところまでのぼっていて、光のあたるところだけ、うすい金色をふくんでいます。
水の音が、すぐ近くでしていました。細い流れが苔のあいだをぬって、見えたりかくれたりしています。土よりもやわらかなにおいのなかに、水のつめたい気配がまざって、森の奥がきれいに洗われたあとのようでした。
リルはしゃがんで、苔の上へ手をのせました。指がしずかに沈み、またもどってきます。やわらかいのに、ちゃんと森のつよさがあるのだと、その手つきでわかるようでした。手のひらを見たリルが、グルゥを見あげます。
「ここ、あたたかいね」
グルゥは短くうなずき、近くの乾いた葉をひろい、浅くくぼんだところへ寄せました。それから火打ちをつかって、小さな火をひとつつくります。火はすぐには大きくならず、赤い息みたいに、静かに葉のふちを照らしました。苔の場所に火を近づけすぎないよう、グルゥは土の見えるところをえらんでいました。
リルは火のそばへ手をかざしました。夕方へむかう空気はひんやりしてきていて、その赤いぬくもりが、指の先からゆっくりしみこんでいきます。火の色が目に入るたび、まわりの苔はいっそう深くみどりになり、水の筋だけが白くほそく光っていました。
森は静かでした。鳥の声も遠く、風が高いところをわたる音だけが、ときどき葉を鳴らします。その下で、火は小さく燃え、水は休まず流れていました。どちらも急がず、どちらもそこにいるだけでよくて、そのあいだにグルゥとリルもいました。
グルゥは手のひらで火の向きをたしかめ、燃えすぎないように葉をよせなおしました。リルはそのとなりで、苔の上に寝ころぶかわりに、ひざを抱えてすわっています。目は半分ほど細められていて、光と火と水の音を、みんなまとめて聞いているようでした。
やがて、木々のあいだの明るさが、ゆっくりうすくなっていきました。苔の上の金色も、だんだん緑のなかへしまわれていきます。かわりに火の色が、さっきよりも近く見えました。
「まだ、みていたい」
リルがそう言うと、グルゥは火にもうひと呼吸ぶんだけ手を入れました。葉の重なりが整えられ、赤いあかりが静かにつづきます。それは引きとめるためというより、この場所の暗さがやさしくなるようにしているだけに見えました。
ふかい苔、細い水、ちいさな火。森のなかのそれぞれが、よく知っている順番でそこにありました。グルゥとリルも、そのならびにそっとまざっていました。だれかのために用意されたような場所ではないのに、来るたび、ちょうどよく二人の居場所になっていました。
グルゥはその場所を知っていて、いつものように先に入りました。大きな足が苔の上へおりると、みどりはつぶれるのではなく、ゆっくり身をよせるようでした。うしろからついてきたリルは、眠たげな目のまま、あたりを見まわしていました。苔は木の根もとの高いところまでのぼっていて、光のあたるところだけ、うすい金色をふくんでいます。
水の音が、すぐ近くでしていました。細い流れが苔のあいだをぬって、見えたりかくれたりしています。土よりもやわらかなにおいのなかに、水のつめたい気配がまざって、森の奥がきれいに洗われたあとのようでした。
リルはしゃがんで、苔の上へ手をのせました。指がしずかに沈み、またもどってきます。やわらかいのに、ちゃんと森のつよさがあるのだと、その手つきでわかるようでした。手のひらを見たリルが、グルゥを見あげます。
「ここ、あたたかいね」
グルゥは短くうなずき、近くの乾いた葉をひろい、浅くくぼんだところへ寄せました。それから火打ちをつかって、小さな火をひとつつくります。火はすぐには大きくならず、赤い息みたいに、静かに葉のふちを照らしました。苔の場所に火を近づけすぎないよう、グルゥは土の見えるところをえらんでいました。
リルは火のそばへ手をかざしました。夕方へむかう空気はひんやりしてきていて、その赤いぬくもりが、指の先からゆっくりしみこんでいきます。火の色が目に入るたび、まわりの苔はいっそう深くみどりになり、水の筋だけが白くほそく光っていました。
森は静かでした。鳥の声も遠く、風が高いところをわたる音だけが、ときどき葉を鳴らします。その下で、火は小さく燃え、水は休まず流れていました。どちらも急がず、どちらもそこにいるだけでよくて、そのあいだにグルゥとリルもいました。
グルゥは手のひらで火の向きをたしかめ、燃えすぎないように葉をよせなおしました。リルはそのとなりで、苔の上に寝ころぶかわりに、ひざを抱えてすわっています。目は半分ほど細められていて、光と火と水の音を、みんなまとめて聞いているようでした。
やがて、木々のあいだの明るさが、ゆっくりうすくなっていきました。苔の上の金色も、だんだん緑のなかへしまわれていきます。かわりに火の色が、さっきよりも近く見えました。
「まだ、みていたい」
リルがそう言うと、グルゥは火にもうひと呼吸ぶんだけ手を入れました。葉の重なりが整えられ、赤いあかりが静かにつづきます。それは引きとめるためというより、この場所の暗さがやさしくなるようにしているだけに見えました。
ふかい苔、細い水、ちいさな火。森のなかのそれぞれが、よく知っている順番でそこにありました。グルゥとリルも、そのならびにそっとまざっていました。だれかのために用意されたような場所ではないのに、来るたび、ちょうどよく二人の居場所になっていました。