ぼくと世界とキミ
「あれから……どうなった?」
どうしても聞きたかった俺のその質問に、ジルは表情を曇らせ俺から目を背けると小さく口を開く。
「ノヴァは逃げた」
「……そっか」
ジルの簡潔な答えに短く頷いて返す。
「ノヴァが逃げると同時に町を襲っていた魔物と……グレノア軍も撤退した」
「……そっか」
はぁっと深いため息を吐くジルにまた短く答えると、それから暫くお互い話し出さないまま……沈黙が続いた。
その息をするのも困難なほどに重苦しい空気と共に、様々な考えが頭の中を廻っていた。
それは失ったセレリアの事や、このフリーディアの事。
あの森で出会った少女の事や、メルキアの不思議な一夜の事。
それからもちろんグレノアと……これからやらなくてはならない事。
そんな様々な出来事や想いでや考えがゴチャゴチャと頭の中を飛び交い、上手く思考が働かない。
でもとりあえず今すべき事だけは分かった気がする。
それは目の前の大切な《友達》に……俺は謝らなければいけないという事だ。
「……ごめ」
「すまなかった」
声を振り絞り謝ろうとすると、ジルに被せる様にして先に謝られてしまった。
ポカンと間抜けに口を開いたままジルを見つめると、ジルはとても真剣な顔をして俺を見つめた。
「でも俺は間違った事をしていないと今でも思っている。この謝罪は……お前に怪我を負わせた詫びだ」
ジルはそう言って俺からそっと視線を外すと、静かに俯いた。
……分かっていた。
ジルの言っていた事は決して間違ってなんかいない。
ノヴァはこの先も変わらないかもしれないし、また誰かの命を奪うかもしれない。
だからあの場でノヴァを殺す事は、本当の意味で誰かを守る事にもなるのかもしれない。
でも俺は……それを選びたく無かった。
どうしても……選べなかったんだ。
「……うん」
そう小さく頷いて答えると、ジルはほんの少し悲しそうに蒼い瞳を揺らしていた。