ぼくと世界とキミ
「お願い……この世界を救って」
そう言って女は真っ直ぐに俺を見つめた。
その彼女の瞳に……今は亡き、母の面影を見た気がした。
気高く聡明だった母。
強く偉大だった父。
城で過ごした恵まれた日々。
もう会う事のできない沢山の人達。
そんな今では遥昔に感じる儚い思い出達が浮かび上がる。
……もう何も……失いたくないんだ。
勇者になれば……俺は守れるのだろうか。
「……俺に……できるのかな」
自分に問いかける様に小さく呟いた。
その呟きに女は微かに喉を詰まらせ、それからコクリと頷いて返す。
「……貴方なら世界を救えます。貴方なら……必ず」
女は何故かそう俯いて答えると、悲しそうに瞳を揺らした。
……世界を救う。
そんな事が俺に出来るのか?
血の滲む手のひらを見つめたまま、必死に考えてみる。
その時、不意に……腰に差している短剣に目が留まった。
そっと手を下ろしその柄に触れると……唇を噛み締める。
……そうだ。
俺はやらなくちゃいけない。
その為に……俺はここに居るんだ。
「出来る限りやってみるよ。あんまり期待されても困るけど」
そう言って困った様に笑って頭を掻いて見せると、女は嬉しそうに顔を綻ばせた。
これが今の俺にできる……精一杯の決断。
俺のその答えにジルも小さく頷いて返すと、それから少し何かを考える様に視線を逸らした。
「ありがとう……ロイ」
そう言って女が優しい笑みを浮かべて笑うのを見て、ほんの少しだけ嬉しくなる。