ぼくと世界とキミ

「ジル!!」

「……平気だ。少し……眩暈がしただけだ」

彼の肩を支え名を呼ぶと、ジルはそう答えて俺の手を振り払った。

しかしその顔色は悪く、かなり疲労している様に見える。

ジルはゼイゼイと呼吸が荒く、額には玉の様な汗が滲んでいた。

「加護を与える時には多くの力が必要になります。ジルなら暫く休めば大丈夫でしょう」

女はそう言うが……ジルにいつもの余裕など全く無く、苦しそうに呼吸をしながら立ち上がる事もできずに、地面に膝をついたまま俯いている。

その彼に姿に、漠然とした不安を覚えた。

「……これで貴方は……《力》を持つ者となった」

そう言って俺を見つめる女の瞳は、なぜか悲しそうに揺らめいている。

「貴方には辛い使命を与えてしまった。でも……分かって。貴方だけが希望なの。ロイ、貴方しか世界を救えないの。……お願い」

女はそう言うと、縋る様な瞳で俺を見つめた。

……迷っていた。

勇者になんてならずに、どこかで平穏な暮らしをしたいと願う自分。

勇者になって、救えるもの全てを救いたいと思う自分。

……割り切れない心はその狭間でユラユラと情けなく揺れ動く。
< 64 / 347 >

この作品をシェア

pagetop