ぼくと世界とキミ
「ジル!!」
「……平気だ。少し……眩暈がしただけだ」
彼の肩を支え名を呼ぶと、ジルはそう答えて俺の手を振り払った。
しかしその顔色は悪く、かなり疲労している様に見える。
ジルはゼイゼイと呼吸が荒く、額には玉の様な汗が滲んでいた。
「加護を与える時には多くの力が必要になります。ジルなら暫く休めば大丈夫でしょう」
女はそう言うが……ジルにいつもの余裕など全く無く、苦しそうに呼吸をしながら立ち上がる事もできずに、地面に膝をついたまま俯いている。
その彼に姿に、漠然とした不安を覚えた。
「……これで貴方は……《力》を持つ者となった」
そう言って俺を見つめる女の瞳は、なぜか悲しそうに揺らめいている。
「貴方には辛い使命を与えてしまった。でも……分かって。貴方だけが希望なの。ロイ、貴方しか世界を救えないの。……お願い」
女はそう言うと、縋る様な瞳で俺を見つめた。
……迷っていた。
勇者になんてならずに、どこかで平穏な暮らしをしたいと願う自分。
勇者になって、救えるもの全てを救いたいと思う自分。
……割り切れない心はその狭間でユラユラと情けなく揺れ動く。