妹に陥れられ追放された令嬢ですが、氷の王弟に息子ともども溺愛されています
一章 没落した公爵令嬢
 ある冬の日の早朝。メレディス・カロッサは、僅かな供を連れて生まれ育った屋敷を出た。

 見送る者は誰ひとりいない。つい先日まで王太子の婚約者だったのが嘘のようなとは思えないほど、寂しい旅立ちだ。

「今日が出発だって分かっているのに誰も来ないなんて……なんて恩知らずな人たちなんでしょう!」

 供の侍女の、レオナが悔しそうに唇を噛み締める。 メレディスは彼女を慰めようと、るために明るく微笑んだ。

「来なくていいのよ。見送られたら名残惜しくなってしまうでしょわ」

 望んで出ていくわけではないのだから、未練を持つような出来事は起きてほしくない。

(未練が生まれたら嫌だもの)

 とはいえ、未練が残るほど、この屋敷のこが居心地がよかったとは言えないのだけれど。

 メレディスは二十年前に、エーレン王国の名門カロッサ公爵家の長女として生を受けた。

 黄金の髪に翡翠色の瞳。雪のように白い肌をした美しい公女だと、両親をはじめとした多くの人々に褒めたたえられた。大きな期待を寄せられて受けて、メレディスの子供時代は幸せに溢れていた。

 しかし母が亡くなり、父が妾(めかけ)の女性を後妻として迎えたときから、メレディスを取り巻く環境はががらりと変化した。

 よくある話だが、継母とは反りが合わず、二歳年下の異母妹との仲もぎこちないものだった。

 父は家族の中で孤立しがちなメレディスを気遣ってくれたものの、継母と異母妹との間で板挟みになり、根本的な解決は叶わないままだった。

 そんな中父が体調を崩し、寝込むことが多くなった。

父に頼れなくなったメレディスは、幼い頃から仕えてくれた使用人に支えられて、孤独な日々をやり過ごしていた。

 新しい家族に認められない分ぶん、公爵家の公女としての相応しくあろうと、日々懸命に勉学に勤しんだ。努力の甲斐が有あって王国一の淑女として、王太子であるマティアス・エーレンフェレスの婚約者に選ばれたのだ。

 人々の祝福を受けて、メレディスはそれまでの苦労が報われた喜びでいっぱいになった。
 ところが今から三カ月前、メレディスが不治の病に侵されていることが発覚したことで、状況が一転した。

 異形症――魔力の源である魔素の影響で、体が異形のものに変化する症状を言う。

 初めは手足がしびれる程度だが、徐々に上手く動かしづらくなりなくなり、徐々に症状が進むと完全に麻痺していくしまう。肌が岩のように固く濃灰色に変化し、最後は動かなくなる。

 機能を停止した部分は濃灰色の、まるで岩のように固くなり思うように動けなくなるのだとか。そして最後は人から遠く離れた姿になり、表に出られないような姿になる。
 一万人にひとりと言われるほど珍しい病で、現在有効な治療法はない。

 原因は不明。遺伝性とも言われているが学者の間ではまだ議論が続いている。つまりこの病にかかったら、体が変化し、やがて朽ち果てていくのを待つしかないのだ。

 メレディスの父であるカロッサ公爵は、自らも闘病でつらい中すぐに名医を呼び寄せ、[Y4.1]メレディスを診させた。しかし名医でもどうにもならず、その報告を受けてすぐに瞬間王家はメレディスを見放した。

 今はまだ、手足の力が入らないことがあるくらいだが、治る見込みがなく、病の進行には個人差がある。いつ死ぬか分からない娘を妃に迎えるわけにはいかない。

 反対する者はなく、速やかに婚約解消となった。
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