まことしやかな恋

 苦労も不自由もない人生だった。

 母親はキャリア官僚で、父親は整形外科医。仕事一筋の彼らを引き合わせたのは母方の祖父だ。見合いの席を設けられ、互いの利が一致した結果、縁談は滞りなくまとまって、俺のような人間が産まれた。

 両親が不仲だったことはない。ただ、結婚後も愛を育むことはなく、己の人生を円滑に進めるパートナーという認識ゆえに家庭のぬくもりは希薄で、家族団欒とは程遠い豪華な邸宅で独り気ままに過ごすのが日常だった。

 容姿が優れていること、地頭がいいこと、運動神経が秀でていること、幼いながらに理解していた。

 そして、人心掌握に長けていることも、他人を通して知った。


「つぐみくんって、やさしいよね」


 男も、女も、子供も、大人も、俺を信じる。

 打算と暇潰しの行いを、これでもかと賞賛した。俺が聖者であると盲信し、誰も疑わなかった。

 人間って、気味が悪いよね。


「嗣海くんは、どういう人がタイプ?」


 頬を赤らめた女が、よく言うセリフ。

 家政婦も、家庭教師も、同級生も、先輩も、教師も、俺に欲を向けてきた。時には男にも誘われ、限りなく欲求が薄い俺は辟易していた。

 後腐れない人間と遊んでみたが、然程楽しいとも感じず。

 周囲の人間は騒々しくて、退屈で。

 毎日、ため息が出るほど、つまらなかった。
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