まことしやかな恋
……は? やだ?
清々しい満面の笑みで告げられた言葉に、頭が真っ白になる。唇を奪われたことへの怒りより、困惑に襲われて言葉ひとつ出てこない。
悪魔よりタチの悪い男を唖然と見つめていると、しれっと舌までいれてきたので、反射的に噛み付いた。
「危ないな〜……」
「……は? いや……、は? ……なに、なんで、なにしてんの?」
「ハートマーク見つけたときより動揺してる? 珍しいから写真撮らせて」
「…………なに、は? 私が、おかしい? 私のあたまが、へんなの……?」
「俺のせいで混乱してんのいいね。いい気味」
コイツ、未知の生命体すぎる。
怒りの感情さえゴリゴリ削っていく嗣海の奇行に呆れ果てるしかなかった。人間に擬態した宇宙人なら説明がつく。NASAに検体として送ろう。
「……私、これでも、悩みに悩んで、真剣に話したのにクソ野郎……」
「俺のことで頭い〜っぱい?」
「性悪クソ野郎……」
「はは、そんなに見つめてどーしたの? 俺に惚れ直した?」
「イカれてる」
もう無理だ、疲れた。家に帰ろう。
立ち上がって見下ろすと、嗣海は妖艶な上目遣いを向けてきた。
曖昧な微笑みが、優美な顔に浮かぶ。
「葵子が欲しいものと、俺が欲しいものは、違うわけ」
「……」
「つまり、どっちが欲しいものを先に手に入れられるか勝負だね」
勝てないと踏んだ私は踵を返す。
逃げたのは、運命からか。それともこの男か。
──どちらでも、厄介だ。