まことしやかな恋

 話をしに来たのに、なぜ眠気に襲われて、そのまま寝そうになっているのだろうか。湯呑みを取り上げられた気配もする。あと手をマッサージされてる。

 むにむにと、一定の圧で解され、血の巡りがよくなるのを、じんわりと上昇する体温から感じた。

 寝かしつけられている気分だ。


「……ねえ、寝させようとしてる?」

「うん。おやすみ」

「話にきたんだけど」

「おやすみ」


 対話を、拒否されている。

 強引に寝かしつけて会話から逃げるのは、面倒事を嫌う嗣海らしいやり方ではあるけど、さすがにどうかと反発心で目を開けた。

 陽炎のようにゆらゆらと揺れる瞳が、私を射抜いている。

 そこはかとない不安の色は、都合のいい幻なのかな。


「大嫌いは、撤回する。……あのときは、本気で嫌いで言ったけど」

「手当てする振りして刺してきたね」

「いいから、聞いて」


 今の、悪気はないんだろうけど、お喋りな嗣海にいちいち反応していたら話が進まない。

 軽く肩を竦めて口を閉じた嗣海を横目に、ふっと息を吸った。


「もし、運命の人がいるとして、運命は何を指すか考えてみた。必ずしも、恋や愛に限定するものではないし、親友を運命の人って呼んでる可能性もある」

「……それで?」

「運命で片付けられる相手なら、めんどくさくないなんて願望でしょ。不幸や過ちもまるっと運命に含まれるかもしれないんだから」

「……」

「私は、嗣海と──」


 目が合う。覚悟は持った。


「まことしやかな運命の、友達でいたい」


 神秘的な瞳が、きらりと艷めく。指先で頬を撫でられ、優しく、

 ────唇を、奪われた。








「や〜だ」


< 39 / 129 >

この作品をシェア

pagetop