まことしやかな恋

 着信を無視して切る。だが、間髪入れずにまた着信音が鳴るので、こうなるとイタチごっこだ。粘着質な若者め。

 連絡先を脅されて渡したあの日以降、こうして暇潰しのように電話が掛かってくる。まことしやかな噂を口実に保健室に現れることも増えた。

 もちろん、相手にしたことはない。運命だろうが何だろうが、あくまでも養護教諭と生徒。あちらとしても一過性のお遊びだ。まあ、クソガキの首にある絆創膏を見る度に後ろめたくはなっているが。


〈着信:嗣海〉


 ……あっ。

 流れ作業のようにクソガキの着信を切り続けていたら、嗣海からの着信を間違って切ってしまった。

 急いで掛け直すと、拗ねた声が受話口から聞こえてくる。


《ねえ、傷ついた。電話は切られるし、おやすみは無視されるし……ぐすん》

《はぁ……泣き真似すると思った》


 予想的中だと枕に顔を埋めれば、くすくすと鈴のような柔らかな笑い声が鼓膜を擽った。


《明日、楽しみ?》

《うん》

《俺も》


 耳の輪郭が溶けそうになるくらい甘い音色で返事を紡がれて、ノーガードな胸に刺さる。恋人になってから、この男は本当に心臓に悪い。

 ……でも、私は知っている。最初のふざけた音色は本心を誤魔化すため。

 だから、臆病な恋人に悟られる前にケリをつけたい。


《大丈夫だよ》

《……な~に、俺の心配してる?》

《安心して、私の夢みてね》

《……っ》

《おやすみ》


 動揺した反応に満足して目を瞑る。

 恋人の不安を取り除くためなら、朝まで電話を繋ぐことも吝かではない。

 らしくないけど。それでもいい。


 ────おやすみの声は、あたたかかった。

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