Oh! My リトルマーメイド
「は? 空港まで迎えに? 俺が?」
母親からの言い付けに、世海は露骨に嫌そうな返事をした。
着信があった時、嫌な予感がしたのだ。やっぱり出るんじゃなかった。
「嫌だよ、仕事があるし。そんな時間取れないよ」
『なに言ってるのよ! あんた車持ってるんだから迎えぐらい行ってあげなさい! せっかく日本から来てくれるんだから』
「別に俺たちに会いに来るんじゃなくて仕事で来るんだろ? ならわざわざ行かなくてもいいじゃないか。あいつだっていい大人なんだから空港からの移動くらい一人でできるだろ」
『なにを、バカな事を言ってるの‼』
ドライバー役をなんとか回避しようとしたが、母恵君の激しい剣幕に太刀打ちできず、結局しぶしぶ「わかったよ」と言うしかなかった。
『来る日が分かったらまた連絡するから。ちゃんとうちまで連れて来てちょうだいよ! 分かったわね!』
返事をするのも癪なので、唸り声で答えて電話を切る。
そのままスマホを腹立たしくテーブルに放り投げ、世海は頭を抱えてうめいた。
「どうしたんだよ、お袋さんになんか言われたのか」
高校時代からの友人、呂俊宏が向かいの席から心配そうに声をかける。
「迎えがどうとか言ってたけど」
「……………………福の子が台湾に来るから、車で迎えに行けって言われた」
俊宏は何の話しだ、と訝しげな顔をしたが、すぐに「おー!」と目を輝かせた。
「福の子ってあれか、お前をこの世に誕生させた孫家の功労者か! いやあ、久しぶりにその名前聞いたな」
「何が功労者だ。俺の両親が頑張っただけで、あいつは何もしていない。ただ寝て喚いてクソしてただけだ」
普段は礼儀正しい友人の珍しい乱暴な言葉に、俊宏は目をパチクリとさせた。
「なんだよ随分な言い方だな。初恋の人だろ」
「四歳の頃のな。そんなの初恋でもなんでもない」
世海は酒を煽り、「今じゃ見る影もない」と吐き捨てた。
「え、今の姿知ってるの?」
「母さんが写真を送ってきたんだ。別に見たくもなかったのに」
「えー俺興味ある。見せてよ」
「もう削除した」
なんでだよーと文句を言う友人を睨みつけて、世海はため息をつく。
「大した事ないよ。顔は俺の方が断然美しいし、髪なんて俺よりも短いんだ。なんのためにあんなに短くする必要があるんだ。耳丸出しなんだぜ、まるで男だ。肌は白くてまあ綺麗だけど、化粧っ気がまったく無くて、してるのかしてないのか分からないぐらいだし。服だって面白みもないシンプルなもので、ピアスはしてたけどそれぐらいしかアクセサリーも身につけてないし。座ってたから断言できないけど、足の長さから身長は百七十以上は確実にあるなあれは。大女だ。絶対足のサイズもデカい」
「よく見てるなー」
感心した声を出す俊宏に舌打ちをして、世海はがしがしと頭をかきむしる。
「行きたくねー」
「まあそう言うなって。彼女の見た目だけでまだどういう人かは知らないんだろ? 会ってみたら気が合うかもしれないじゃないか。なんせお前の福の子なんだし。大事にして損はないと思うぜ」
「冗談言うな。まっぴらごめんだ」
普段の交友関係は基本受け身な世海の拒絶反応に、俊宏は目を丸くする。
「なんでそんなに拒否するんだ? 高校の頃は会いたがってたよな、確か」
「覚えてない」
「いやそうだったよ。金貯めて日本に探しに行くんだって言ってたよ。本当に見つけたらすごい運命だなって俺思ったもん」
「見つけたよ、実際な。それで幻滅したんだ」
「そうなの⁉」
いつ⁉ と身を乗り出してくる友人をすわった目つきで睨んで、世海は酒をあおる。ピッチが早い。
「会った訳じゃなくてネットで見つけたんだ。名前で検索して。そしたらヒットした。衝撃だったよ。あいつバレーボールをしてたんだ」
「別に悪いことじゃないだろ、スポーツする女の子、俺好きだよ」
「たしなむ程度ならな、俺だって別にいいよ。でもあいつがいた高校はなんか強豪校だったみたいで、すげー気迫でプレーしてた。まさに鬼の形相だった。ガッツポーズは男みたいだったし、試合動画で聞いた声なんてガラガラにかすれてた。百年の恋も冷めるとはあの瞬間のことだったんだなて思うよ」
「ふーん」
世海のコップに酒を注いでやりながら、俊宏は訳知り顔で頷いた。
「つまりあれか、大事にしてた初恋の君の面影を崩されて、怒ってるって訳か」
「だから初恋じゃないって」
「まーまーまーまー」
ムキになる世海をなだめて、俊宏は彼のためにエビの殻を剥いてやる。
「怒るなよ、そんなことで。人間は変わるもんだろ。しかも四歳が高校生になったんだ。好みも顔も変わるさ。そのまんまでいる方が不気味だよ」
「……………………見た目の話しだけじゃねーよ」
「ん? なんだって」
「なんでもない。早く剥け」
母親からの言い付けに、世海は露骨に嫌そうな返事をした。
着信があった時、嫌な予感がしたのだ。やっぱり出るんじゃなかった。
「嫌だよ、仕事があるし。そんな時間取れないよ」
『なに言ってるのよ! あんた車持ってるんだから迎えぐらい行ってあげなさい! せっかく日本から来てくれるんだから』
「別に俺たちに会いに来るんじゃなくて仕事で来るんだろ? ならわざわざ行かなくてもいいじゃないか。あいつだっていい大人なんだから空港からの移動くらい一人でできるだろ」
『なにを、バカな事を言ってるの‼』
ドライバー役をなんとか回避しようとしたが、母恵君の激しい剣幕に太刀打ちできず、結局しぶしぶ「わかったよ」と言うしかなかった。
『来る日が分かったらまた連絡するから。ちゃんとうちまで連れて来てちょうだいよ! 分かったわね!』
返事をするのも癪なので、唸り声で答えて電話を切る。
そのままスマホを腹立たしくテーブルに放り投げ、世海は頭を抱えてうめいた。
「どうしたんだよ、お袋さんになんか言われたのか」
高校時代からの友人、呂俊宏が向かいの席から心配そうに声をかける。
「迎えがどうとか言ってたけど」
「……………………福の子が台湾に来るから、車で迎えに行けって言われた」
俊宏は何の話しだ、と訝しげな顔をしたが、すぐに「おー!」と目を輝かせた。
「福の子ってあれか、お前をこの世に誕生させた孫家の功労者か! いやあ、久しぶりにその名前聞いたな」
「何が功労者だ。俺の両親が頑張っただけで、あいつは何もしていない。ただ寝て喚いてクソしてただけだ」
普段は礼儀正しい友人の珍しい乱暴な言葉に、俊宏は目をパチクリとさせた。
「なんだよ随分な言い方だな。初恋の人だろ」
「四歳の頃のな。そんなの初恋でもなんでもない」
世海は酒を煽り、「今じゃ見る影もない」と吐き捨てた。
「え、今の姿知ってるの?」
「母さんが写真を送ってきたんだ。別に見たくもなかったのに」
「えー俺興味ある。見せてよ」
「もう削除した」
なんでだよーと文句を言う友人を睨みつけて、世海はため息をつく。
「大した事ないよ。顔は俺の方が断然美しいし、髪なんて俺よりも短いんだ。なんのためにあんなに短くする必要があるんだ。耳丸出しなんだぜ、まるで男だ。肌は白くてまあ綺麗だけど、化粧っ気がまったく無くて、してるのかしてないのか分からないぐらいだし。服だって面白みもないシンプルなもので、ピアスはしてたけどそれぐらいしかアクセサリーも身につけてないし。座ってたから断言できないけど、足の長さから身長は百七十以上は確実にあるなあれは。大女だ。絶対足のサイズもデカい」
「よく見てるなー」
感心した声を出す俊宏に舌打ちをして、世海はがしがしと頭をかきむしる。
「行きたくねー」
「まあそう言うなって。彼女の見た目だけでまだどういう人かは知らないんだろ? 会ってみたら気が合うかもしれないじゃないか。なんせお前の福の子なんだし。大事にして損はないと思うぜ」
「冗談言うな。まっぴらごめんだ」
普段の交友関係は基本受け身な世海の拒絶反応に、俊宏は目を丸くする。
「なんでそんなに拒否するんだ? 高校の頃は会いたがってたよな、確か」
「覚えてない」
「いやそうだったよ。金貯めて日本に探しに行くんだって言ってたよ。本当に見つけたらすごい運命だなって俺思ったもん」
「見つけたよ、実際な。それで幻滅したんだ」
「そうなの⁉」
いつ⁉ と身を乗り出してくる友人をすわった目つきで睨んで、世海は酒をあおる。ピッチが早い。
「会った訳じゃなくてネットで見つけたんだ。名前で検索して。そしたらヒットした。衝撃だったよ。あいつバレーボールをしてたんだ」
「別に悪いことじゃないだろ、スポーツする女の子、俺好きだよ」
「たしなむ程度ならな、俺だって別にいいよ。でもあいつがいた高校はなんか強豪校だったみたいで、すげー気迫でプレーしてた。まさに鬼の形相だった。ガッツポーズは男みたいだったし、試合動画で聞いた声なんてガラガラにかすれてた。百年の恋も冷めるとはあの瞬間のことだったんだなて思うよ」
「ふーん」
世海のコップに酒を注いでやりながら、俊宏は訳知り顔で頷いた。
「つまりあれか、大事にしてた初恋の君の面影を崩されて、怒ってるって訳か」
「だから初恋じゃないって」
「まーまーまーまー」
ムキになる世海をなだめて、俊宏は彼のためにエビの殻を剥いてやる。
「怒るなよ、そんなことで。人間は変わるもんだろ。しかも四歳が高校生になったんだ。好みも顔も変わるさ。そのまんまでいる方が不気味だよ」
「……………………見た目の話しだけじゃねーよ」
「ん? なんだって」
「なんでもない。早く剥け」