第一印象最悪の彼が、最愛の旦那さまになりました
「でもどうしよう。こんなときに気づくなんて」

 身を引けと迫られて、気持ちを自覚するなんてあまりに間が悪い。

「まずは社長と話して、豊原さんの話がどこまで本当なのか確認した方がいいよ。千咲の話を聞く限り、そんなに悪い結果にならないと思う。社長も千咲のことが好きなんじゃないかな?」
「まさか……どうしてそう思うの?」

 澄春が千咲を好きになるとは思えない。それでも希望を好きれなくて、彩香に応えを急かす。

「あの氷の社長が千咲には優しくて、笑いかけたりもするんでしょ? それだけで愛を感じるよ」
「……ちょっと期待しちゃうじゃない」

 澄春の穏やかな微笑が脳裏に浮かぶ。

 妻を守ると言ったときの真摯な顔。祖母と話しているときの柔らかい表情。

 早く慣れてくれと言ったときの切ない声。

(少しは私のことを好きになってくれたのかな?)

「かなり見込みがあると思うよ。それに元々相性抜群のふたりなんだから」
「でも私はその相性のよさがプレッシャーになってる。私がプロポーズされたのは、彼に選ばれたからじゃなくて、システムに選らばれたからだって。澄春さんは仕事のために結婚を決心したんであって、他の人でもよかった。そう思うと遠慮してしまうというか」
「気にしすぎじゃない? 婚活アプリでの出会いっていうと、感情がないような気がするけど、お見合いと一緒で結婚してから愛を育てていけばいいんだよ。ただの一つの出会いだよ。これからはどんどん増えていくと思うよ」

 彩香が一生懸命、千咲を励まそうとしてくれる。

「そうだね……」

(ただのひとつの出会いか……私、難しく考えすぎてたのかな?)

「そうだよ。ここで飲んで嫌なことを忘れて、家に帰ったら社長とちゃんと話し合いなよ」
「うん。そうする。アドバイスありがとう」

 彩香が言う通りだ。凛華の件で動揺していたけれど、千咲はもう少し冷静になる必要がある。

 彩香とあれこれ話ながら飲んでいると、あっという間に二時間近くが過ぎていた。

 一時の衝動は大分収まっている。

 彩香が時刻を確認した。

「九時半か……この後どうする?」

 彩香と飲んだ後は、夜カフェに寄って酔いを醒ますことが多い。

「あ、言うの忘れてた。今日は澄春さんが迎えに来てくれることになってるの。彩香にも挨拶したいって」
「えっ、私に?」

 彩香が高い声を上げる。

「その……妻の親友だからって」

 こういうことは言いづらい。歯切れが悪くなると千咲に、彩香がにやりと笑った。
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