第一印象最悪の彼が、最愛の旦那さまになりました
「凛華の件は、市川の発言以外に証拠はないのか?」

 正樹の顔が曇った。

「ない。凛華は証拠を残さないように上手く行動している。市川に聞いたがメッセージのやり取りは一切せず、社内で会って話していたらしい。監視カメラにも残らないようにしている。そもそも同じ会社の社員なんだから、ふたりが話しをしていてもておかしくない」
「つまり凛華に責任を取らせるのは無理なのか?」
「ああ、凛華が認めるはずない。市川は、彼女が千咲さんに嫌がらせをしたいために利用した捨て駒だ」

 澄春は報告書を見て、目を細めた。

 静かな怒りが、心の中に積み重なる。

 そのとき沈黙を破るようにノックの音がした。

「真田部長か? ……入ってくれ」

 正樹が声を上げた直後扉が開く。しかし部屋に入ってきたのは真田ではなく凛華だった。

 澄春が冷ややかな眼差しを凛華に向ける。

「澄春、私、なにか誤解されてるって聞いたけど」

 凛華は、後ろめたいことはないもないと言わんばかりの、爽やかな笑顔だ。

「本当に誤解か?」

 澄春の冷たい声に、凛華の動きが一瞬止まる。しかし彼女はすぐに笑顔の仮面をかぶった。

「……誤解よ。私が、アローフォワードを窮地に追い込むような真似をするはずがないじゃない。それとも私がやったという証拠があるの?」

 澄春が答えないと、凛華は矛先を正樹に変えた。

「正樹、どうなの?」
「証拠はない。ただ市川はお前にそそのかされたと言っている」

 凛華の美しい顔に、苛立ちが浮かぶ。

「失礼ね。私のせいにすれば罪にならないと思っているのかしら。澄春、まさか幼馴染の私より市川君を信じないわよね?」

 凛華が澄春をじっと見つめる。

 澄春が無言のままでいると、凛華は機嫌良さそうに笑った。

「それよりも会社の名誉を回復しないとね」
「それは広報が対応している」

 正樹が答えた。

「どんな対応を取るの?」
「不倫疑惑はデマで社長夫婦の関係は良好だ。ベストマリアージュは信頼できると声明を出す」
「ふーん……でも、千咲さんと市川が密会していたのは事実よ。澄春、これは裏切りじゃないの?」
「まだデマを流すつもりか?」

 澄春が凛華を睨みつけた。

「ま、まさか……ただ私は澄春に理解してほしいの。千咲さんはあなたが思ってるほど誠実じゃないって。知らないかもしれないけど、市川は千咲さんの昔の恋人よ」
「知ってる。問題もない」

 言いつのる凛華に、澄春は突き放すように言った。

「知ってる? それなのに何もしないの?」

 凛華は信じられないといったように、澄春を見つめる。

「俺と千咲のことに口を出すな」
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