第一印象最悪の彼が、最愛の旦那さまになりました
 千咲の脳裏にコーヒーショップの出口近くでうずくまる女性の姿が蘇った。

「たしか田中さん?」
「ええ。いつか恩返しがしたいと思っていたの。だから遠慮なく言ってね」
「はい……」

 人の優しさがうれしくて、千咲の胸に迫るものがあった。

 親切が巡り廻って帰ってきたのだ。

 澄春は千咲を優しい目で見つめていたが、その視線を凛華に向けたときには、暗くどこまでも冷たかった。

「凛華、この件は今までのように曖昧には終わらない。豊原家に抗議も入れる。それから、開発設計部長も解任だ」
「なっ、なんで……そんなの許さない!」

 凛華は澄春を睨み声を荒げたが、踵を返しその場から逃げ出した。

「澄春さん」

 澄春は千咲を心配そうに見つめた。

「大丈夫か?」
「大丈夫。豊原さんの罪を追及できそうでよかった。二度とおばあちゃんが傷つかないようにしっかり決着をつけたい」
「分かってる。あとは俺に任せて」
「うん」

 その後、千咲と澄春は田中さんと連絡先を交換してから、前島医師と祖母の治療方針の相談をした。幸い発作の後遺症は少なく、予定しているカテーテル手術も行えるとのことだった。

 祖母の精神的ショックも、だいぶ落ち着いた。
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