第一印象最悪の彼が、最愛の旦那さまになりました
 ただ、彼の演技があまりに見事だから、つい本気で言っているように錯覚してしまった。

 祖母どころか千咲でも見抜けなくくらいの、見事な演じ方だ。

(それにしても、あんなふうに笑えるなんて知らなかった)

 千咲と話しているときは一切笑わなかったから、表情筋が死んでいるのかと思っていた。

(単に私には愛想よくする必要がないってことね)

 無駄なことはしないということだ。

(さすが氷の社長)

 千咲は思わず遠い目をした。

 面会時間が終わり、千咲は澄春と共に病院を後にした。

「水無瀬社長ありがとうございました。祖母もすごく喜んでいました」

 少し思うところはあったが、感謝は示さなくてはいけない。千咲は澄春に丁寧に頭を下げた。澄春はそんな千咲に冷めた目を向ける。

「感謝なんてしなくていい。夫として当然のことをしただけだ」
「それでも、祖母に優しくしてくれてうれしかったです」
「それならよかったな……これで問題は解決したか」
「……はい」

 問題解決。その言葉がなんだか冷たく感じた。

 澄春にとっては夫の義務としての対応だったと分かっている。

 けれど、病室で祖母と話す姿に温かさを感じたから、落差が気になってしまう。

(あれは演技。こっちの冷たいのが素の水無瀬社長)
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