第一印象最悪の彼が、最愛の旦那さまになりました
 心の中で気持ちを切り替える。

「そう言えば、水無瀬社長のご家族には挨拶しなくてもいいんですか?」
「必要ない」

 澄春は迷いなく答える。

(必要ないって、もしかして自分の家族にまで冷たいのかな?)

 真っすぐ前を向いていた澄春は、なにかを思い出したように千咲を見た。

「俺の家族について話しておく」
「は、はい」
「両親は十年以上前に他界した。兄弟姉妹はいない。親族は多いが、挨拶は結婚後でいい」

 説明は十秒もかからず終わってしまった。

 単に事実だけ。澄春との間柄や人物像など、これから親戚付き合いをするうえで千咲が気になる情報はなかった。澄春と親族の関係はよくないのかもしれない。

 澄春らしいと言ったらそうなのだけれど、人間味に欠ける。

(でも……水無瀬社長もご両親を亡くしているんだ)

 恵まれているように見えるが、彼も寂しい想いをしてきたのかもしれない。

(それで、人を寄せ付けない雰囲気になったのかな?)

 そんな考えが浮かんだけれど、余計なことは言わずに頷いた。

「わかりました」
「引っ越しはいつの予定だ?」
「今の住まいの片づけや退去手続きもあるので、数日必要です。入籍をする日に有給を取る予定です。慌ただしくなりますけど、そのときに合わせて引っ越しもしていいですか?」
「分かった俺もその日、予定を空けるから一気に済ませよう」
「引っ越しを手伝ってくださるんですか?」

 意外だった。

(おばあちゃんの件といい、意外と面倒見がいいのかな)

 優しいところもあるのだと感心しかけたが「義務は果たす」という彼の言葉ですぐに気持ちが冷めた。

 やはり彼は氷と男だ。冷たくて機械のよう。

(でも責任感は強いのはいいことだから)

 結婚後蔑ろにされたり、理不尽な目に遭う可能性は低そうだ。

「お手数ですがよろしくお願いします」

 頭を下げる千咲に、澄春は頷いた。

 その後、彼は自分の車で千咲を家まで送ってくれたのだった。
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