雨宮くんと相合傘。
「お前、いい匂いすんのな」
「……やめてよ」
「マジだって……なんか、このまま家、帰りたくねーわ」
歩みが止まる。
雨宮くんの視線が、じっと私の唇に落ちた。
「雨、やまなければいいのに……」
いつもおちゃらけている彼の瞳が、今はひどく真剣で。
雨のカーテンに隠された世界で、二人きり。
「雨宮くん……」
名前を呼ぶと、彼がゆっくりと顔を近づけてくる。
睫毛が触れそうな距離。
雨の音が遠ざかって、世界には彼の匂いと体温だけが残った。
「……明日も、雨降ればいいな」
結局、唇が触れる寸前で、彼は悪戯っぽく笑って私の頭をぽんぽんと叩いた。
「じゃあな。風邪ひくなよ、おチビちゃん」
いつの間にか家の前についていて、彼は濡れた肩も気にせず、ひらひらと手を振って去っていく。
一人残された玄関先。
閉じた傘から滴る雨の音を聞きながら、私は赤くなった頬を両手で押さえた。
明日も、雨がいい。
そんな不謹慎な願いが、胸の中でそっと形になった。
……ズルいよ、雨宮くん。
雨上がりの空はまだ遠いけれど。
私の心は、よく晴れた日のように、清々しい気持ちになっていた。
【End】