恋煩いの処方箋


 三人で手を洗い買ってきた食材を並べる。調味料が足りなくて家のストックから出す。聞けば、大和のマンションのキッチンには塩と醤油くらいしか置いてないと言う。我が家に招いて良かったと思った。
「ハンバーグを作るならせめてケチャップもあった方がいいかな」
「なるほどね。それでこのナツメグってなに?」
 スパイスの小瓶を手に不思議そうに眺める。
「それはね、お肉の臭み消しに使うの。それじゃあ、私はお米を研ぐからハンバーグはお願いね」
 少々心配ではあるけれど、和花は“先生のハンバーグ”を心待ちにしている。私が手伝ったりしたらガッカリしそうだから。
お米を研ぎ、炊飯器に入れる。その後、付け合わせのブロッコリーとニンジンを茹でて、ジャガイモはくし切りにして素揚げした。
大和は和花と一緒にハンバーグの成型を始めている。まるで粘土遊びをしているように見えなくもないけれど、楽しそうなのでよしとする。
ご飯が炊けて、ハンバーグも焼き上がる。
「ハートは先生のだからね!」
 和花が言うと、大和がそれをお皿に盛り付ける。フライパンにソースとケチャップを合わせて、それをかける。
小さなテーブルに並べると床に座ってみんなで「いただきます」をする。
「うわぁ〜おいしそう!」
 目をキラキラさせる和花。その隣で大和も「旨そう〜」と箸を手に取った。
 少し焦げたハンバーグはとても美味しくて、ご飯が進んだ。付け合わせの野菜も、味噌汁も全部平らげる。
こんな賑やかな食卓はひさしぶりだった。和花と大和が遊んでいるうちに、食器を洗い始める。
「俺がやるよ」
 お人形遊びを始めた彼の手にはウサギの子供の人形が握られている。
「ありがとう、大丈夫!」
すると「でも」と、申し訳なさそうな顔をする。
「本当に大丈夫だから。その代わり和花と遊んでくれる?」
「もちろんだよ」
 残酷な事をしているのは分かっている。でも、我が子の笑顔を見ていたら父親と過ごす時間を奪いたくないと思ってしまった。
片付けが済み、みんなで食後のデザートを食べ始める。大和が買ってくれたミニシュークリーム。ついさっきまでお腹がいっぱいだったはずなのに、何個でも食べられてしまう。
「亜子は本当にシュークリームが好きだなぁ」
「だって美味しいんだもん」
それに、大和が買ってくれたものはいつだって特別な味がする。
「のんはプリンがよかった!」
 和花は私たちの会話に割って入る。普段はこんなわがままは言わないのに。
「そっか、のんちゃんはプリンが好きなのか。次は必ずプリン買ってくるよ! だから今日はシュークリーム食べてくれる?」
 いつも間にかのんちゃんと呼び始めた大和の言葉に、和花は満足そうに頷く。
「いいよー」
 そう言って、お皿からひょいとシュークリームを摘むと大きな口を開けてパクりと食べる。
「もう、和花ったら。わがままでごめんね」
「ぜんぜん、のんちゃんの好きなものが知れてよかったよ」
 和花を見つめる大和の視線に涙が出そうになった。たくさん教えたい。知ってもらいたい。産まれてからの六年間の思い出を全部大和に話したい。そのためにはまず、あの雪の日の夜のことから話さなければならなくなるけれど。
「あのね、大和」
言いかけた時、インターフォンが鳴った。
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