恋煩いの処方箋
寿司ネタが尽きた時にはかなり満腹の状態。けれど、大和が買ってきてくれたプリンはもちろん別腹。硬めの焼きプリンは甘さ控えめでたまごの風味をしっかり感じる。カラメルの程よい苦味が味を引き締めてくれている。和花はペロリと平らげてしまった。
「おいしかったー先生、買ってきてくれてありがと」
和花は満面の笑みを浮かべて大和を見つめる。わかりやすいくらいにデレる様子をみていて、先が思いやられるなぁと思う。大和はきっと娘思いの父親になるだろう。和花もパパっ子になりそうだ。そこまで考えて、慌てて掻き消す。期待して、ダメになった時が怖かった。まだ"家族"になると決まったわけじゃない。大和の口からはっきりと言われていないし、和花にも彼が父親であることを話していない。互いの両親にもだ。それに、彼女の存在も。
「どういたしまして」
「それとねー先生」
和花は急に表情を曇らせて、もじもじとし始める。
「どうしたんだい? のんちゃん」
 大和はきちんと体を向けて和花の言葉を待っている。
「……今日はごめんなさい」
いつ伝えるのだろうと見守っていたが、自分のタイミングで、言葉で、伝えられてホッとする。
大和は一瞬でも驚いて、それからちゃんと真面目な顔をして和花の手を握った。
「和花ちゃん。これからは危ないことはしないって約束してほしい。なにか困ったことがあったら、ママやおじいちゃんやおばあちゃん、保育園の先生……もちろん僕でもいいから必ず相談すること、いいね」
 和花は大和をじっと見つめて、それからゆっくりと頷く。
「先生に相談してもいいの?」
「もちろんいいよ」
「でもどうやって?」
「先生の連絡先はママが知ってるから、電話をかけてもいいし、メッセージを送ってもらってもいいよ。そうしたらのんちゃんに会いにくるからさ」
「いいの?」
ちらっと私の顔を見た。大和に会うことを散々はぐらかしてきたから、突然そう言われて困惑しているのだろう。
「いいのよ」と頷くと和花は満面の笑みを浮かべる。「やったぁ」と飛び跳ねて、大和に抱きつく。
「先生、だぁいすき!」
「先生ものんちゃんのこと大好き」
私もふたりのことを抱きしめたくて堪らなかった。でもまだ、それはできない。和花に大和のことをきちんと伝えてからでないと。

 
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