恋煩いの処方箋
「あれー、もしかして間宮さん?」
車に戻ろうとすると背後から声がかかる。振り向くと見覚えのある顔が近づいてくる。
「やっぱりそうだ! 田川だよ、田川麻美」
金髪に近い明るい髪色で、Tシャツとスエットパンツを履いている。
「……田川さん⁈ 」
高校で同じクラスだっが、いわゆる"一軍"にいた彼女とはあまり話したことはなかった。
「久しぶりだね、卒業以来? こんな所で会うなんてびっくりじゃない?」
ぐいぐいと間合いを詰めてくる。
「うん、そうだね。元気そうでよかった、じゃあ、また」
スマホを置いてきてしまったので早く戻らないとと思い、話を切り上げる。けれど、彼女は話を続けながら後をついてくる。
「じゃあ、この辺で……」
「てか、誰と来てんの? 車どの辺?何乗ってんの? 私はこれから旦那の実家」
悪い子じゃないのは分かっている。高校生の同級生に会えて懐かしいとも思う。でも、大和との関係はまだみんなに知られたくなかった。
「亜子?」
大和が車から降りて私を呼んだ。田川さんがそれに気付く。
「えっ、有馬くんじゃん! もしかして、有馬くんと一緒なの?」
「うん、そう……」
「じゃあここで」と別れようと思ったのに、田川さんは大和に駆け寄る。
「うわ、まって、めっちゃ高級車。しかも品川ナンバーー、え、まって子供? ふたりって、そゆこと?」
どう答えたらいいのだろうと逡巡していると、大和が口を開く。
「そう、この子は俺たちの娘。これから水族館に行くんだ、だからそろそろ俺の妻を解放してくれないかな?田川さん」
なんの嫌味もなく、でも有無を言わさずと言った感じて大和は言う。
妻、とハッキリ口に出されるのは初めてで、どんな顔でいればいいのか困っていると大和は私の肩を抱く。
「あー、私もそろそろ戻らないと旦那がうるさいからいくわ、じゃあ」
「うん、じゃあね。気を付けて!」
田川さんをふたりで見送って車に戻る。和花はまだ眠っていた。