恋煩いの処方箋
「のんちゃん、起きないね」
「昨日眠れなくて夜更かししたのに朝早く起きたの。つくまで寝てるのかも……」
「じゃあ、ちょっとBGM変えちゃおうかな」
和花向けの曲を流してくれていた大和は、スマホを操作して別のプレイリストを選ぶ。流れてきたのは高校時代にふたりでよく聞いていた懐かしい曲。
「これ、亜子が好きだったやつ」
「ちがうよ、大和が好きだったんだよ」
それで毎日聴くようになって、いつしか大和よりも詳しくなってしまった。
他愛のない会話を楽しみながら、車は高速を降り、市街地へ入る。
「そろそろ海が見えるぞ」
「海どこー?」
まるで示し合わせたかのように和花が目を覚ます。タイミングの良さに笑ってしまった。
「ほらあそこ」
松の木の間から海の青が見える。大和が車の窓を開けると潮の香りが鼻をくすぐる。
「うわーほんとだぁ」
興奮気味に和花がいう。私もわくわくしてくる。海のない県で育つとまるで外国に来たかのようにテンションが上がってしまう。
ほどなくして、目的地の水族館に到着する。駐車場が満杯で、第二駐車場へと誘導される。少し遠いが、三人で歩くのも楽しい。お弁当は大和が持ってくれる。ほかの荷物は私が持つ。いままでは全部ひとりで持っていたので、とても楽だ。
和花を真ん中にして手を繋ぐ。三人並んだ影を見た時、胸がじんわり熱くなり、自然と涙が込み上げてくる。泣いてはいけない。こんなに楽しそうな娘の前では泣けない。