恋煩いの処方箋
「気に入ったならよかった」
「気に入らないわけないじゃない! 連れてきてくれてありがとう」
「どういたしまして。夕食はフレンチにしたんだけど、いい?」
「フレンチ⁉︎ 嬉しいけど、マナーとかよく分からなくて……」
ナイフとフォークが並べられたコース料理を食べるのは高校の修学旅行の時と結婚式に御呼ばれした時くらいで、正式なマナーなんて分からない。しかもこんな立派なホテルでの食事となると私のせいで大和に恥をかかせかねない。
「大丈夫、大丈夫。堅苦しいのは苦手だからわりとカジュアルな店を選んだんだ」
そう大和が言うので、どこか安心した。小さなバッグだけ持ってホテルの別の階にあるというレストランへと向かう。ふたりきのエレベーターの中で、大和は私の手を握った。いつもは和花と繋いでいるので、感覚の違いに戸惑う。大きくて力強くて、温かい。
「ずっとのんちゃんが羨ましかった」
なんて、まるで子供みたいに言うので、「え、なにそれ」と笑う。
「冗談! あー、でも少し本気」
確かに三人でいる時はお互い親の振る舞いをしている。無理をして演じているわけではないけれど、恋人の期間がなかったから憧れはある。
「……実は私も。のんが大和に抱っこしてもらってるのちょっと羨ましいと思ったことがある」
「抱っこはごめん」
「冗談だよ」そう言いかけた時、大和は私を背中から抱きしめる。
「でも、これならいつでも。むしろたくさんしたいと思ってた」
大和は首筋に顔を埋める。
「亜子。いい匂いがする」
耳に息がかかる。否応なしに鼓動が走り出す。
「……香水、付けたの。メイクも、いつもより頑張ったんだよ」
「俺のために? そんなの、かわいすぎだろ」
腕に力がこもる。唇が頬に触れる。こんなところでキスなんて、そう思うのに抗えない。
ーーポーン。と機械音がしてエレベーターのドアが開いた。まるで夢から醒めたように、大和は私の体を解放する。私は一抹の寂しさを感じた。するとそれを分かっているかのように私の手を取ると今度は自分の腕に絡ませる。
「いこうか」
「うん」