恋煩いの処方箋
お店は想像していたより賑やかな雰囲気だった。ガチガチにならず会話を楽しみながら食事が出来そうだ。インバウンド客なのか海外の人の姿も多くて都会だなぁとしみじみ思う。
通された席からは都心のビル夜景とオレンジ色に光る東京タワーが見えた。うっとりと見入ってしまう程の美しさがある。
「食前酒はシャンパンでいい?」
「うん飲みたい! 今日は大和も飲めるんだよね?」
大和は普段、車の運転があってお酒は飲まない。医師という仕事柄、いつ呼び出しがあるかわからないのでお酒は完全オフの日だけと決めているそうだ。その完全オフというのが、勉強中の彼には殆どなくて、多分今日がそうなのだろう。遠く離れた東京で、さすがに呼び出されることはない。一緒にお酒を実は飲むのはあの日以来になる。
「乾杯」
細かな泡が踊る液体が満たされた華奢なグラス。それを慣れた手つきで持ち上げた大和が微笑む。
「乾杯」とグラスを合わせる仕草をして、ひとくち口に含む。果実にも似た甘い香りが微細な泡と共に弾ける。アルコール度数は高いはずなのに、飲み口が軽くてサラサラと喉を滑り落ちていく。一緒にアミューズをつまむ。シュー生地の中にフォアグラが入っていてとても美味しい。
「うん、旨い」
飲み干して大和が言う。私のグラスも空だ。
「ほんと、美味しいね」
しみじみと思う。普段飲むスーパーの缶入りカクテルも十分美味しいのだけれど、よそ行きの服を着て特別な場所で特別な人と飲むお酒は比べ物にならないくらい格別だ。
「よかった。ワインは料理に合わせて選んでもらったから、楽しみにしてて」
「ありがとう、大和」
オードブルは野菜と魚介のテリーヌ。断面の模様が可愛らしい。スープは濃厚で甘味のあるポタージュ。
和花にも食べさせてあげたい。きっと大喜びするだろうと彼女の顔を思い浮かべた瞬間、「のんちゃんがもう少し大きくなったら一緒に来よう」と大和が言う。
「そうだね」
和花にはまだ少し早い。でも大和の娘として、有馬家の孫として、恥ずかしくないようなマナーを身につけてほしい。
凝った料理とそれにあわせたワインを楽しみながら、最後のデザートというタイミングで大和がお手洗いに立つ。
ほろ酔いの私はただぼんやりと夜景を眺めていた。和花はもうお風呂に入っただろうか。母からはなんの連絡もないので、ぐずったりはしていないのだろう。
「亜子」
不意に名前を呼ばれ、視線を向ける。するとバラの花束を抱えた大和が私を見つめている。
「大和……どうしたの、それ」
驚く私の足元に跪く。
「亜子。俺と結婚してください」
まさか、またプロポーズしてもらえるなんて思っていなかった。しかも、花束まで用意して。嬉しくて涙が込み上げてくる。
「もー、なんで……」
「ちゃんとプロポーズしてなかったから。ねぇ亜子、返事は?」
大和は私の返事を待つ。周囲の人の視線が私たちに注がれているのは気のせいではないはずだ。
「はい。よろしくお願いします」
花束を受け取るとたくさんの拍手で祝福される。気恥ずかしさよりも喜びの方が勝るなんて思いもしなかった。それから大和はジャケットのポケットから箱を取り出す。パカっと蓋を開けるとダイヤモンドがキラキラと輝いている。エメラルドカットの石はなかなかの存在感だ。
「受け取ってくれる?」
「もちろん」
大和は少し緊張しながら私の左手の薬指に嵌めてくれる。普段アクセサリーはつけない私の指に不思議なくらい馴染む。もちろんサイズもピッタリだった。
「すごく素敵。幸せすぎて、怖いくらい。本当にありがとう。大和、大好き」
言葉では言い尽くせないくらい大和への感謝が溢れる。デザートを食べると、店を出た。
通された席からは都心のビル夜景とオレンジ色に光る東京タワーが見えた。うっとりと見入ってしまう程の美しさがある。
「食前酒はシャンパンでいい?」
「うん飲みたい! 今日は大和も飲めるんだよね?」
大和は普段、車の運転があってお酒は飲まない。医師という仕事柄、いつ呼び出しがあるかわからないのでお酒は完全オフの日だけと決めているそうだ。その完全オフというのが、勉強中の彼には殆どなくて、多分今日がそうなのだろう。遠く離れた東京で、さすがに呼び出されることはない。一緒にお酒を実は飲むのはあの日以来になる。
「乾杯」
細かな泡が踊る液体が満たされた華奢なグラス。それを慣れた手つきで持ち上げた大和が微笑む。
「乾杯」とグラスを合わせる仕草をして、ひとくち口に含む。果実にも似た甘い香りが微細な泡と共に弾ける。アルコール度数は高いはずなのに、飲み口が軽くてサラサラと喉を滑り落ちていく。一緒にアミューズをつまむ。シュー生地の中にフォアグラが入っていてとても美味しい。
「うん、旨い」
飲み干して大和が言う。私のグラスも空だ。
「ほんと、美味しいね」
しみじみと思う。普段飲むスーパーの缶入りカクテルも十分美味しいのだけれど、よそ行きの服を着て特別な場所で特別な人と飲むお酒は比べ物にならないくらい格別だ。
「よかった。ワインは料理に合わせて選んでもらったから、楽しみにしてて」
「ありがとう、大和」
オードブルは野菜と魚介のテリーヌ。断面の模様が可愛らしい。スープは濃厚で甘味のあるポタージュ。
和花にも食べさせてあげたい。きっと大喜びするだろうと彼女の顔を思い浮かべた瞬間、「のんちゃんがもう少し大きくなったら一緒に来よう」と大和が言う。
「そうだね」
和花にはまだ少し早い。でも大和の娘として、有馬家の孫として、恥ずかしくないようなマナーを身につけてほしい。
凝った料理とそれにあわせたワインを楽しみながら、最後のデザートというタイミングで大和がお手洗いに立つ。
ほろ酔いの私はただぼんやりと夜景を眺めていた。和花はもうお風呂に入っただろうか。母からはなんの連絡もないので、ぐずったりはしていないのだろう。
「亜子」
不意に名前を呼ばれ、視線を向ける。するとバラの花束を抱えた大和が私を見つめている。
「大和……どうしたの、それ」
驚く私の足元に跪く。
「亜子。俺と結婚してください」
まさか、またプロポーズしてもらえるなんて思っていなかった。しかも、花束まで用意して。嬉しくて涙が込み上げてくる。
「もー、なんで……」
「ちゃんとプロポーズしてなかったから。ねぇ亜子、返事は?」
大和は私の返事を待つ。周囲の人の視線が私たちに注がれているのは気のせいではないはずだ。
「はい。よろしくお願いします」
花束を受け取るとたくさんの拍手で祝福される。気恥ずかしさよりも喜びの方が勝るなんて思いもしなかった。それから大和はジャケットのポケットから箱を取り出す。パカっと蓋を開けるとダイヤモンドがキラキラと輝いている。エメラルドカットの石はなかなかの存在感だ。
「受け取ってくれる?」
「もちろん」
大和は少し緊張しながら私の左手の薬指に嵌めてくれる。普段アクセサリーはつけない私の指に不思議なくらい馴染む。もちろんサイズもピッタリだった。
「すごく素敵。幸せすぎて、怖いくらい。本当にありがとう。大和、大好き」
言葉では言い尽くせないくらい大和への感謝が溢れる。デザートを食べると、店を出た。