幼馴染への三度目の失恋を回避したい ――激重な片思いを隠さなくなってきた彼に、心臓がもたなくなってきた彼女。
 ◇

 数曲を連続で歌い終えたなっちゃんは、トイレか何かで部屋を出ていった。

 すかさず、ノリのいい学級委員の男子がマイクを奪い、みんなで合いの手を入れられる定番の「男子の失恋ソング」を入れた。
 部屋はさらなるカオスと熱狂に包まれる。

 数分後、なっちゃんが席に戻ったのが見えた。

 しばらくは、外に行かないだろう。
 つまり、今なら廊下で鉢合わせずに済むはずだ。

 このタイミングを見計らって、「ジュースのおかわり行ってくるね」と立ち上がると、葵のコップも空になっているのに気づいた。

「取ってきてあげる! 何がいい?」

「ありがと。じゃあコーラ」

「オッケー」

 私は空のコップを二つ持ち、重い防音扉を開けた。


 廊下に出ると、中の狂ったような喧騒が嘘のように静かだ。
 他のボックスから微かに歌声が漏れてくるものの、それも遠くに感じられ、空調がよく効いているせいで一気に肌寒さを覚えた。

 突き当たりにあるドリンクバーのコーナーにたどり着く。

 私のメロンソーダ、隣の機械で葵のコーラを注ぎ終わり、振り返ったときだった。

「…………!!」

 こちらに向かって、早足で歩いてくる人影に気づいた。

 ――なっちゃんだ。

(えっ、なんで!? 戻ってきたばっかりだったのに! タイミングずらしたのに!)

 ここは廊下の端。行き止まりで、逃げ場がない。
 おまけに私は両手に並々と注がれたジュースを持っているため、走って逃げることもできない。

 あたふたとしている間に、なっちゃんは私の目の前まで迫ってきた。

「……ちょっと来て」

「えっ」

 有無を言わさぬ低い声。

 なっちゃんは、コップを持った私の両手首をそっと、けれど逃げられない強さで掴むと、廊下からは死角になる非常階段の踊り場へと引っ張っていった。
< 64 / 121 >

この作品をシェア

pagetop