一夜の過ちのはずが政略結婚相手の社長に溺愛されています

1章 諦めるために、あなたに触れた夜

私は、九条蒼真という名前を大学の頃に知った。

ビジネス雑誌の特集記事。

若くして会社を率いる社長――という肩書きよりも、穏やかな表情でインタビューに答えているその姿が、なぜか印象に残った。

(この人の下で働いてみたいな)

そんな軽い憧れだった。

それが、気づけば目標になっていた。

新卒の採用試験は落ちたけど、それでも諦めきれなくて、半年後の中途採用に応募した。

事務職でもいい。ただ同じ会社にいられたら、それでいいと思った。

そして――合格。

通知を見たとき、しばらく画面を見つめたまま動けなかった。

本当に、あの人と同じ場所にいられるんだ。

入社してからの毎日は、想像以上に忙しかった。

伝票処理に電話対応、細かい雑務ばかり。でも、不思議と苦じゃなかった。

だって、同じ会社に――九条社長がいる。
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