太陽と狐は「」をする
『私を見て。
 神子様なんかじゃない、ただの天照灯を』



 誰も知らないし知ることのないだろうその本音は、口に出さないまま心の中に押し込める。

 神子なんて立場はいらない。
 貧しくてもいい、無能でもいい。
 それでいいから、
 小説に出てくる少女達のように放課後に寄り道をしてみたい。友人だけで遊びに行ってみたい。お泊まり会なんかもしてみたい。文化祭のようなイベントで一致団結してみたり、一緒に回ってみたりしたい。
 叶わなくてもいいから、儚い恋だってしてみたい。

 今の灯では決して叶わないそれを、できるなら全部やってみたい。



「自由に、なりたい……」



 心からの願い。願望。それが灯の口から漏れ出した。
 出てきた言葉を理解して、咄嗟に口を押さえる。

 嗚呼、なんて酷い女なんだろう。将来この国を背負わなければいけない女が、この立場に負担を感じるだなんて。自分に今までかけられてきた愛。期待。それを全部無碍にする、何よりも酷いことじゃないか。

 そんな自己嫌悪が頭を駆け巡る。

 期待が息苦しい。
 愛してもらったお返しをしなければ。
 役割なんて散々だ。
 それが私の人生じゃないか。
 なら私の人生って一体何?

 自問自答を繰り返す。
 繰り返すたびに、代わりのきくこの人生、この役割が嫌になる。



「……もう、寝よう」



 これ以上考えるのは良くない。そう感じた灯は電気を消して布団に潜り込む。
 顔を触れば、指に冷たいものが触れる。涙だった。



(いつのまに泣いていたんだろう……)



 心当たりは沢山ある。でも、目を逸らして瞳を閉じた。

 本棚に雑に仕舞い込んだ文庫本。毎日飽きずに読んでいたその本を、その日灯は初めて読まなかった。
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