これは私が望んだ復讐です

11話 聡明なスカーレット

 

「常々私は聖女の力について疑問に思っていたから、ちょうどいい機会だと思う。この国は豊かな国だ。他国が病気や飢饉で苦しんでいる時も、この国だけは天候も安定し平和そのものだった。それを聖女一人の力だと言われることに、果たしてそうだろうかと考えていたのだ」


 陛下が真剣な表情でそう話しているけれど、結局は「すべてを聖女が作った結界の手柄にされるのは不満だ」ということだろう。


 陛下たちには結界も魔力も見えない。隣国で何千人も死ぬ流行り病がなぜかこの国に入ってこなかったことも、たくさんの家を破壊した暴風雨がこの国を避けて通ることも、陛下にとっては偶然だということだ。


(いつも私に優しかった態度も、結局は聖教会への政治的な対応だったのね……)


 そしてこの機会に私を王家に囲い込み、「聖女はもういない」「結界も意味がない」と国民に宣言し、聖教会の力を弱めようとしているのだろう。


 あまりの悔しさにぎゅっと握りしめた拳に爪が食い込む。厳しい王妃教育の賜物である、どんなことでも崩さない表情がこんな時に役立つなんて、皮肉なことだ。


「もちろんスカーレットが今までのように、()()()()()()()()をしたいのなら許可してやってもいい。しかし優先するべきは、まだ未熟なシャルロットの王妃教育の支えになることだ。幸い、オーエンと君には愛情が育まれていなかったようだし、妹のためにこれからも王家に尽くしてくれるだろうか?」


 その言葉を聞いたシャルロットはすぐさま立ち上がり、私の前にひざまずいた。


「お姉様! わたくしからもお願いいたします。何もわからないわたくしを、この国の王妃となるよう導いてください!」


 胸の前で手を組み私に縋るその妹の姿に、父親が声を荒げる。


「スカーレット! 妹のシャルロットがこんなに健気に頼んでいるのだ。早く返事をしなさい!」


 そう言うと父は妹の手を取り、椅子に座らせる。足元をふらつかせ、か弱い態度を見せるシャルロットだが、私を見上げた時の顔は笑っていた。しかもあの顔は、ただ笑っていただけじゃない。


 自分の勝利を確信し私をあざ笑うあの笑顔。それを見たのは、真正面に座っていた私だけだった。


「スカーレット、()()()()のことだ。返事をもらえるかな?」


 私には茶番に思える妹とのやり取りに、まるで感心するように陛下がうなずき、返事を急かす。


(……陛下、それが答えなんですね)


 すべてはこの国のため。聖女として選ばれたからには、その責務を負っていこうと決意したあの日が懐かしい。


(今となってはそんな覚悟捨てちゃいなさいって、言いたいところだわ……)


 たしかその日にオーエン様との婚約も決まったのだった。初めて顔を合わせた時の殿下は、今ほど冷たくなかった。それどころか嬉しそうに笑っていたのだけど。


 今の彼は私をニヤニヤと笑い、自分のお咎めがなかったことにホッと胸をなでおろしているようだった。


(こんな王家に尽くそうとしていたなんて……)


「スカーレット? 何も言わないが、了承したということで良いか?」


 陛下のその言葉で、私はゆっくりと顔を上げる。そしてにっこりと微笑み、口を開いた。
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