これは私が望んだ復讐です
12話 逃げ出す準備
「陛下、少しだけお時間をいただけますか? わたくしも先ほど妹の妊娠を知ったばかりで混乱しております。もちろん陛下のご意見や今後のこと、とても良い提案だとわかっておりますが、少しだけ気持ちを落ち着けてお返事をしたいのです」
そう言うと、陛下の眉毛がピクリと動いた。私が即答すると思ったのだろう。父親も私の肩を乱暴につかむと「何を言っているんだ! 早く王家に尽くすと言いなさい」と揺さぶっている。
(しょうがないわね……最後の手段だわ)
私はちらりとオーエン様を見つめ、そっと涙を拭う仕草をしてうつむいた。
「気持ちの整理をする時間が欲しいのです……どうか、お願いいたします」
「スカーレット……」
オーエン様の声が、静まり返った部屋に響く。久しぶりに聞いた私を心配するような声色に、私はホッと安堵のため息を吐いた。
(これで上手くいくでしょう……)
気持ちの整理など、とうについている。しかし時間を稼がなくては。ここで陛下の望む返事をすれば、私はすぐさま王宮の奥で軟禁状態だ。
(たとえ衣食住が豪華であっても、囚われの身なんて最悪だわ。そのうえ妹の尻拭いを一生させられるなんて……絶対に嫌!)
私はこんな時ばかりシャルロットの真似をし、精一杯の演技で失恋に胸を痛める一人の令嬢を演じている。そして案の定、オーエン様は私が予想した言葉を言ってくれた。
「父上、私からもお願いします。スカーレットに時間をお与えください」
「……そうか。わかった」
まるで私に褒美を恵んであげているかのような口ぶりに、心の奥が煮えたぎりそうだ。それでも私はその熱い塊をグッと心の奥に押し込んで、顔を上げた。
「ありがとうございます。あと、教会のことなのですが、急にわたくしが通わなくなると司教様から陛下に連絡があると思うのです。ですからシャルロットとオーエン様の婚約発表までは、結界に魔力を注ぐ真似事をしなくてはならないと思います」
「……それもそうだな。しばらく教会には計画を伏せておかないと。わかった。スカーレットはいつもどおり教会に行ってくれ」
陛下もこれにはすぐ賛成してくれた。教会を排除するにしても、急な反発は困るのだろう。「なるべく体調が悪いように演技するのだぞ」と言うと、ニヤリと笑った。
(魔力が無くなりかけているように事前にほのめかしておけ、ということね。まあ、それは私にとっても好都合なのでやりますけども)
常日頃にこやかな顔の下で、陛下は虎視眈々と教会の排除を考えていたのだろう。そして聖女という存在も邪魔だったのだ。私が「魔力を注ぐ真似事」と陛下の言葉をなぞったことで、満足そうに笑っている。
(きっと今しかチャンスはないわ……)
再び視線をオーエン様に移し、ハンカチで目元を拭う。涙はこれっぽっちも出ていないが、鼻をすすってみると予想以上に悲しげな雰囲気が出た。
「陛下、もう一つお願いがあるのですが、わたくしお二人の婚約発表までは王宮を出て叔母の家に身を寄せてもよろしいでしょうか?」
「なに? それはどういうことだ?」
一気に不機嫌そうな声を出し、陛下が前のめりになる。私はわざとうめき声を出し、今度はシャルロットのほうを見た。