これは私が望んだ復讐です
14話 妹との入れ替わり
「それには良い案があります。わたくしは本日から体調が悪いという理由で、ヴェールをかぶります。陛下はわたくしが痩せてしまい顔色が悪いのでそうしていると、社交界に広めてください」
「ほう、それでどうするのだ?」
「シャルロットが王宮で同じヴェールをかぶれば、周囲はわたくしだと思うでしょう。顔を隠して教会に行けば、計画も隠しやすくて好都合ですわ」
私のその返事に陛下は「ほう」と感嘆の声をあげ、満足そうに笑った。私が王族側についたと考えたのだろう。
「なるほど、こっそり入れ替わるということか」
「はい」
「やはり、スカーレットは聡明だな」
「ありがとうございます」
(急いで考えた案だけど、かえって良かったかも……。ツヤツヤな顔で教会に行ったらすぐに嘘だってわかっちゃうし)
「それならすぐに二人分のヴェールを用意させましょう」
お妃様が外で待つ侍女に指示を出し、私とシャルロット用のヴェールを持ってこさせる。魔力を含んだ私の黒髪が目立たないように、黒いヴェールだ。シャルロットが小声で「こんな不吉な色、嫌だわ」と呟いたが、無視してご機嫌を取ることにした。ここで彼女にぐずられたら面倒だもの。
「さあ、シャルロット。ヴェールをかぶってみましょう。あなたのその美しい髪が隠れてしまうのは残念だけど、王太子妃になるために必要なことよ。大丈夫。婚約発表の場では豪華に着飾れるわ」
にっこりほほ笑んでそう言うと、シャルロットは渋々ヴェールをかぶった。前の部分だけはレースになっているから、薄っすらと周囲の状況は見える。髪の毛は後ろでまとめれば大丈夫だろう。シャルロットも「意外と見えるわ」と言って不満はないようだ。
「ふむ。こうやって二人が並ぶとわからないものだな」
「そうですか? それなら良かったです」
「わたくしはお姉様とは違いますわ!」
私たちの姿が似ているという陛下の言葉が不愉快だったのか、妹のシャルロットが珍しく声を荒げた。父が宥めるように妹の肩にふれると、あわてて謝っている。しかしそのやり取りも陛下には面白く映っているらしい。ハハッと声を出し笑うと、顎をさすって私たちを見比べていた。
「顔を見ているとそうは思わなかったが、やはり姉妹だな。特に二人は声が似ている。なあ、オーエン。そう思わないか?」
「えっ! は、はあ……そう、かもしれません」
突然話をふられたオーエン様は、戸惑った顔で私たち姉妹を交互に見ている。王妃様も「たしかに似てるわね」と言っているけれど、シャルロットは「そうでしょうか?」と不満げだ。
(まあ、いいわ。これで私とシャルロットの入れ替わりが完了した。あとは教会にも手を打たなくちゃ……)
「では、陛下。わたくしは早速今晩から、叔母様の家で過ごしたいと思います」
「ああ、暗い夜道だ。気をつけて行くがいい」
国王夫妻に挨拶をし、一応他の三人にも言葉をかけて部屋を出ることにした。とはいっても父とシャルロットは婚約発表に着るドレスのことばかり話していて、私の挨拶など聞こうともしない。仕方がないのでオーエン様にも軽く挨拶をし、そのまま部屋を出て行った。
(よし! とりあえずうまくいったわ! 先に早馬を出して叔母様に連絡しなきゃ!)
まだ夜会は盛り上がっている最中だろう。人の出入りが始まらないうちに王宮を出ておきたい。私は無作法だけどほんの少しドレスを持ち上げ、早足で行こうとした。その時だった。
背後でカチャリと扉が開いた音がした。父が文句でも言いに来たのかと思って振り返ったが、意外にもそこにいたのはオーエン様だった。
「スカーレット!」
オーエン様は勢いよく私に近づき肩を乱暴につかむと、自分のほうを向かせた。薄暗いヴェールの中からでも、彼がニヤリと笑ったのがわかり、全身がぞわりと総毛立つ。
「オーエン様、どうし――」
「君が涙を流すほど、私のことを愛していたとは思わなかったよ」
「え……?」
一瞬なんのことかわからなかった。ぽかんと口を開け、さっきまでの会話を思い出してようやく気づいた。
(しまったわ。陛下への泣き落としのつもりだったけど、オーエン様からしてみれば私が彼に失恋したように見えたんだ)
その場しのぎの嘘だったのだけど、オーエン様が気にして追いかけてくるとは思わなかった。不本意だけど、しょうがない。私は話の流れに付き合うことにし、そっと下を向いた。
「……さきほどは取り乱してしまって、申し訳ございません」
(あれは抵抗しなかった未来の私が流す涙よ。二度とあなた達の前で泣くことはないわ……)
それにしても何を言いに、わざわざ追って来たのかしら。「残念だったな」とでも言いにきたのかと思ったけど、そういう雰囲気でもなさそうだわ。早く王宮を出たい私が、掴まれている肩を振り払うように身をよじる。すると急にオーエン様が私を自分の胸に引き寄せ、抱きしめてきた。