これは私が望んだ復讐です

15話 オーエンからの侮辱

 
「あ、あの……オーエン様? 」


 とっさに胸の前で腕を交差させ密着するのを防いだけど、オーエン様は私の体を逃さないように抱きしめている。そのままぐいぐいと壁に押し付けてくるので、逃げることができない。そして私の耳元に顔を寄せ、なにか囁いた。


「……やろう」
「え? 今、なんと?」


 ぼそりと言ったその言葉の意味を探ろうとするけど、顔を動かすことすらできない。オーエン様の息が首筋にかかるほど近いのだ。私が少しでも動かせば、彼の顔と私の顔が触れ合ってしまう。


(こんなところ見られたら最悪だわ! 私が誘っただの言われるに決まってる!)


 あわてて腕に力をこめ、オーエン様の胸を押し返す。すると彼は伸ばした私の腕をつかみ、壁に貼り付けにした。ジンジンと痛むほど手首をつかみ、オーエン様が私を見ている。そしてニヤリと笑うと、今度はハッキリと先ほど言った言葉を口にした。


「抱いてやろうと言っているのだ」
「……は?」


(今、なんて言ったの? 抱いて……?)


 オーエン様の足が私の両足の間に入り込み、腰をピッタリと押し付けられる。もがこうと動くと彼も同時に腰を動かし、あまりの気持ち悪さに体が固まっていく。


「陛下は公にはできないが、君たち姉妹二人を娶れと言っているのだ。私も気が向いたら、君を抱いてやってもいい」


 舌なめずりをするような音と、荒い息が耳の奥に響き頭がクラクラしてくる。目の前が真っ白で、わなわなと震える体を抑えることができない。


(息を、息をしなさい! スカーレット!)


 今までこんなにも怒ったことはない。さっきの婚約破棄や妹の影として生きろと言われた時だって、呆れる気持ちのほうが強かったのだ。


(ううん。むしろそれらが今、全部積み重なった怒りなのかも。ここまで侮辱されるとは思わなかったわ……)


 それでも今は我慢しなくては。頭に血がのぼったような怒りを抑え込むように深く息を吸うと、私は悲しげな声を出した。


「まあ……そんなこと言わないでくださいませ。シャルロットが泣いてしまいますわ。わたくしはオーエン様に、なにも望みません。望む立場ではありませんから」


 ヴェールをかぶっていて良かった。あちらからは私の顔が見えない。ここまで言葉と顔の表情が違うことはないだろう。私はありったけの憎しみをこめてオーエン様を睨んでいる。しかしそれに気づかない彼は、フッと笑って私の体から離れた。


「ふん。謙虚なことだな。だが王宮の奥で男を知らずに一生を過ごすのは、かわいそうだ。俺が情けをかけてやるから、楽しみに待っているがいい」


 そう言うと、オーエン様はシャルロットたちがいる部屋に戻っていった。私は彼の背中を見つめ、一礼をする。


(さようなら、オーエン様。私を怒らせた代償はきっちり払ってもらいますわ)


 誓いのようなその言葉は、まだ彼には届かない。それでも必ずあなたを、いいえ、この国で私を利用した人たちを跪かせてみせるわ。


 くるりと背を向け、王宮の長い廊下を歩いていく。途中で会う侍女たちは何事かとヴェールをかぶった私を見ているけど、説明する気にもならない。思い返せば侍女たちだって私のことを笑っていたのだ。


(ここに私を大切に思ってくれる味方なんていなかったんだわ……)


 私は最後にカツンと大きく靴音を鳴らし、王宮から叔母の屋敷に向かう馬車に乗り込んだ。
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