【凛視点】クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日

#3 「たまたま目に入っただけだ」――耳を赤くした先輩の、不器用すぎる嘘

八月になっても、先輩との距離感は変わらないままだった。

プロジェクトの打ち合わせでは言葉を交わす。メールのやり取りもある。でも、それはあくまで「仕事の話」だけで。あの残業の夜みたいに、ふいに先輩の方から声をかけてくれることは、あれきりなかった。

(……そういうものか。部署も違うし先輩だし)

私は自分のデスクで、そう言い聞かせるようにパソコンの画面を眺めた。フロアの向こう側、いくつものデスクを挟んだ先に、先輩の横顔が見える。今日も静かに、淡々と仕事をしている。

(……あの人、いつも同じ顔してるな)

感情が読めない、というより、感情を表に出すことに興味がないみたいな。そういうところが最初は怖かったけれど、今はもう、そういう人なんだと分かってきた。

口下手だけど、ちゃんと見てくれている。
言葉は少ないけど、行動が正直な人。

(……でも、もう少し話せたら、いいのにな)
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