恋が終わっても、人生は続いていく

エピローグ:それでも、続いていく



季節が、少しだけ変わっていた。



あの夜から、

いくつかの時間が過ぎている。



同じバー。



同じカウンター。



でも。



あのときとは、

少しだけ違う空気が流れていた。



「……久しぶり」



グラスを置きながら、

沙織が小さく笑う。



「ほんとにね」



向かいに座る女性も、

同じように笑った。





三人が、

また揃う。





偶然みたいで。



どこか、

必然みたいなタイミングで。





「どう?」



美海が、

軽く聞く。





「ちゃんと生きてる」





沙織が答える。





少しだけ、

照れくさそうに。





「仕事も、忙しいし」





「朝もちゃんと起きてるし」





「ご飯もちゃんと食べてる」





当たり前のこと。





でも。





それが、

前よりちゃんと“自分のため”になっている。





「いいじゃない」





美海が、

静かに言う。





「それが一番難しいのよ」







「そっちは?」





沙織が聞き返す。





少しだけ、

間があく。





「……元気よ」





苦笑しながら答える。





「相変わらず、思い出すけどね」





グラスを揺らす。





「でも」





少しだけ、

視線を上げる。





「戻らない」





あのときと、

同じ言葉。





でも。





今はもう、

少しだけ軽く言える。







「私は……」





陽菜が、

小さく口を開く。





「まだ、怖いです」





正直な言葉。





「好きになるのも」





「失うのも」





声が、

少しだけ震える。





でも。





「でも」





ゆっくり、

続ける。





「前よりは、ちゃんと向き合えてる気がします」







二人が、

静かに頷く。





(それでいい)





誰も、

急がせない。





誰も、

否定しない。





それぞれのペースで、

進めばいい。







バーテンダーが、

グラスを置く。





「少しずつで、十分です」





穏やかな声。





「人生は、長いですから」





その言葉に、

三人が少しだけ笑う。







「……ねえ」





ふいに、

沙織が言う。





「また、好きになれるかな」





あの夜と同じ質問。





でも。





今は少しだけ、

意味が違う。





美海が、

肩をすくめる。





「なるでしょ」





あっさりと。





「懲りないから、人は」





三人で、

少しだけ笑う。







グラスを持ち上げる。





「じゃあ」





誰からともなく。





「これからの恋に」





小さく、

重ねる。





カチ、と音がする。





その音は、

あの夜よりも、

少しだけ軽かった。







恋は、

終わった。





でも。





人生は、

続いていく。





少しずつ。





それぞれの形で。
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