黒弁護士は夜咲く桜を独占する~過保護な愛に溶かされて~
声をかけてきたのは先ほど、私と同じようにつまらなそうに窓の外を見ていた彼だった。

「所長から僕に電話がありましたよ。
明日の公判の資料、田野沢(たのざわ)さんひとりに押しつけてどこに行ってるんだ、知っていたら教えてくれって」

彼が銀縁スクエア眼鏡の奥から男を見下ろす。
その目はかけている眼鏡と同じくらい、冷え冷えとしていた。
おかげで私の背筋までピキピキと凍りついていった。

「ぐうっ」

男が喉を詰まらせ、私の手を掴む力が強くなる。

「まさか、仕事が終わっていないなんて思いませんでした」

はぁっと彼が呆れるように小さく息を落とした途端、男は乱雑に私の手を離した。

「戻ればいいんだろ、戻れば!」

キレ気味に言って立ち上がり、男は去っていった。
本当に事務所へ帰っていればいいが……まあ、そう祈ろう。

男が去っていった方向から視線を戻しかけて、彼と目があった。

「先輩が申し訳ありません」

眼鏡の下で眉を僅かに寄せ、すまなさそうに彼が詫びてくる。

「いえ。
大変、ですね」

なにが、とは言わずに言葉を濁した。

「ええ、まあ」

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