黒弁護士は夜咲く桜を独占する~過保護な愛に溶かされて~
「夏初、大丈夫!?」

ふたりの姿が見えなくなった途端、晴貴さんは膝を折って私と視線をあわせて頬に触れた。

「あんなばっちいもの入れたんだから、とりあえず口、洗っておいで」

「……ばっちい」

その単語を聞き、私を含めその場にいた全員が微妙な顔になる。
なんだか晴貴さんと似合わなさすぎて、ついくすくすと笑いが漏れていた。

「ああ、うん。
確かにばっちいですね」

「うん。
ばっちい、ばっちい」

「え、僕、なにか変なこと、言った?」

みんなに笑われて晴貴さんは困惑気味で、やっと普通に戻れた。

晴貴さんに言われたからではないが、お手洗いで歯を磨く。
口に入った、憲吾先生の血の味も気持ち悪かった。

「うっ」

磨きながら前歯が、ぐらぐらしているのに気づいた。
憲吾先生がかなり暴れてもがっつり噛みついていたので、そうなっても仕方ない。

「ううっ。
これって抜かなきゃダメなのかな……」

憲吾先生には一矢報いられたが、思わぬダメージにへこんだ。

歯の件は晴貴さんに報告した。
隠しきれることではない。

「しっかり治療費と通院費、請求してやる」

彼はすっかりその気だけれど。

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